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近年,日本企業やNGOの海外での活躍あるいは国際協力による政府関係者の渡航増加に伴って,リーシュマニア症侵淫地である赴任国の僻地で罹患する症例が多くなってきた。わが国では1980年以降少なくとも22例の皮膚リーシュマニア症が報告されている。多くがこのような企業戦士が感染した輸入症例である。
皮膚リーシュマニア症には大きく分けて4種の起因原虫がある。以下のTとUは旧大陸(ユーラシアとアフリカ大陸)に分布し,VおよびWは新大陸(中南米および南米)に分布する。原虫種の同定は通常単離培養された原虫のzymodeme分析でおこなうが,Leishmania majorに関してはPCRでも同定できるようになった。皮膚リーシュマニア症が疑われた場合,海外渡航歴の聴取(病気の地理的分布)と患部の生検・培養による原虫検出・抗体価測定などの検査によってできる限り病型を明らかにし,部位と病変の広がりに応じた診断治療を行うことが重要である。特に,患部が潰瘍化している場合は,細菌や真菌が混合感染していることがあるので注意を要する。
T. Leishmania tropicaとL. aethipica
熱帯リーシュマニア症あるいは東洋瘤腫と呼ばれる。地中海東部,中近東,インド,西パキスタンに分布。通常,単発の浅い紅斑局面があり,浸潤を触れ,辺縁は軽度堤防状に隆起するが,潰瘍化しない。1〜2年ぐらいで自然治癒する。わが国での症例はサウジアラビア7例(36歳と36歳,男,共に電気工事業:赤崎良太ら:皮膚,26,780-783,1984;37歳,男:中山樹一郎ら:西日本皮膚科,49,353-354,1986;46歳,52歳,56歳,男:臨床皮膚科,43,1275-1280,1989;51歳,男:矢後文子ら:寄生虫誌,38増,58,1989),モロッコ1例(27歳,男,青年海外協力隊員・測量技師:元木良和ら:臨床皮膚科,47,17-20,1993),イラク1例(年齢不明,男,湾岸戦争人質:野中薫雄ら:1991,未発表),インド・パキスタン1例(67歳,男,カメラマン:宮原素美ら:1993,未発表)である。
U. L. major
以前L. tropica majorあるいはL. tropicaの農村型(湿潤型)とされてきたが,1983年WHOが独立種とした。地理的分布はL. tropicaに似るが,サハラ砂漠を除く赤道より北のアフリカ地域や旧ソ連南部地域も含まれる。砂バエの刺咬部に掻痒を伴うピンク色の小丘疹ができ,その後徐々に退色して暗紫色にかわり中央が潰瘍化する。L. tropicaより予後が悪く,丘疹集合局面が多発することもあり,注意を要する。自然治癒した場合,病変部は紫色の角質の多い瘢痕が長期間残る。わが国での症例はサウジアラビア6例(48歳,48歳,30歳,41歳,45歳,28歳,全員男:高柳和江ら:診断と治療,10,2583-2586,1988),マリ4例(32歳,26歳,38歳,54歳,全員男,NGO植林プロジェクト員:真貝美香ら:臨床寄生虫誌:2,21-23,1991),イラク1例*(45歳,男,会社員:児島孝行ら:皮膚臨床,29,409-413,1987)。
*原著ではL. tropicaと記載されているが凍結保存されていた虫体はPCRでL. majorと確定された。
V. L. mexicana属
中南米や南米北部に分布する。患部の症状はL. majorに似るが,多発することはまれで1カ所が拡大・増悪し骨が露出することもある。予後は悪い。わが国での症例はない。
W. L. braziliensis
粘膜リーシュマニア症と呼ばれ,発症するまで数年を要する。砂バエ刺咬部に硬結が残るが,後年,顔の鼻中隔粘膜が侵される。わが国の症例では,帰国した日系移民の症例(中村家政ら:皮膚臨床,8,632,1966)と外鼻再建の症例(48歳,女:田原真也ら:耳鼻咽喉科,頭頚部外科,65,94-95,1993)がある。
近年の輸送力拡大に伴い,邦人が仕事や遊びで海外に出かける機会が増加していることから,また,日系人の帰国増加によって,今後,新大陸の皮膚リーシュマニア症患者が増加すると予想される。
東海大学医学部感染症学部門 永倉貢一
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