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Vol.16 (1995/6[184])

<特集>
ヘルパンギーナ 1994


 ヘルパンギーナは,毎年夏に乳幼児に多くみられる急性熱性疾患で,咽頭から軟口蓋にかけての水泡を特徴とする。主にコクサッキーウイルスA群(CA)によって起こる。

 厚生省感染症サーベイランスによると,1994年のヘルパンギーナ患者報告数は6月第2週から増加し始め,7月第4週をピークとして9月末に終息した(図1)。1994年の流行は1992年,93年に比べて大きく,ピーク時期の明らかな地域差はみられなかった。一定点医療機関当たりの年間患者報告数は全国平均では39.94人,ブロック別で多かったのは中国・四国45.53人,東北42.71人,九州・沖縄41.28人,少なかったのは関東・甲信越の28.63人であった。前年比は全国平均1.24で,ブロック別で高かったのは東北1.76,北海道1.69,九州・沖縄1.55で,1.00を下回ったのは東海・北陸0.90のみであった。患者の年齢分布は過去5年とほぼ同様で,0歳10%,1歳22%,2歳19%,3歳16%,4歳13%,5〜9歳16%,10歳以上3.7%であった。

 1994年に病原微生物検出情報へ報告されたヘルパンギーナ症例(診断名または症状にヘルパンギーナと記載されていたもの)からのウイルス分離数は502であった(表1)。CA各型のうちで最も多かったのはCA10で111(22%),次いでCA2が76(15%),CA4が65(13%),CA5が53(11%)であった。CA10は1988年以来1年おきに増加しており (本月報Vol.15,No.7参照), CA2は1991年以来3年ぶりの増加であった。1991〜93年にかけて分離数の多かったCA4と,1993年に多かったCA6は減少した。1994年はヘルパンギーナ症例からのコクサッキーウイルスB群の分離数が増加したが,分離総数に占める割合は例年と変わっていない。

 各機関からのウイルス分離報告数を地域別,月別に図2にまとめた。1993年と94年を比較すると,関東・甲信越でCA4,CA10が減少,CA2が増加,近畿でCA6が減少,CA10が増加,中国・四国でCA10が増加した。各機関から病原微生物検出情報へ報告されるウイルス分離数は,感染症サーベイランスによる当該地域の患者報告数と一致しない。

 ヘルパンギーナ症例では,CA10,CA2,CA4,CA5のそれぞれ97%(108),96%(73),97%(63),98%(52)が鼻咽喉材料から,残りは便から分離された。CAはマウスあるいは培養細胞によっ分離される。マウスによる分離はCA2,CA5,CA4ではそれぞれ99%(75),92%(49),71%(46)であったが,CA10では25%(28)であった(CA5の1例,CA10の2例が両方法により分離されている)。

 1994年のCA10,CA2,CA4,CA5の分離総数はそれぞれ200,96,87,78,そのうち臨床診断名が記載されていた症例は172,92,82,68,ヘルパンギーナと診断された症例は62%,83%,79%,78%であった。CA10では24%が手足口病と診断されている。CA10が分離された3例(0歳2例と6歳),CA5が分離された1例(4歳)が無菌性髄膜炎と診断された(表2)。

 1994年にCA10,CA2,CA4,CA5が分離された症例の年齢分布を図3に示した。CA10は1歳および5歳を中心に二峰性のピークが認められたが,CA2は1歳,CA4,CA5は2歳からの分離が最も多かった。CA10は,年少児においてヘルパンギーナ症例から分離される割合が低い傾向がみられ,0,1歳では手足口病症例がヘルパンギーナ症例とほぼ同じ割合であった。

 速報:感染症サーベイランスによると,1995年第20週(5月14日〜5月20日)の一定点医療機関当たりヘルパンギーナ患者報告数の全国平均は0.30人である。岐阜県(1.34人),香川県(1.21人),大分県(1.26人)で報告数が増加している。病原微生物検出情報(5月19日現在)へは,ヘルパンギーナ症例からのCA4の分離が,1995年3月に京都市で1例報告されている。



図1. 地域別ヘルパンギーナ患者報告数の推移 1992-1994年(感染症サーベイランス情報)
表1. ヘルパンギーナ症例からの年別ウイルス分離数,1989〜1994年
図2. ヘルパンギーナ症例から分離されたウイルスの地域別,月別報告数,1993〜1994年
表2. CA10,CA2,CA4,CA5分離例の臨床診断名,1994年
図3. 年齢別CA10,CA2,CA4,CA5分離数,1994年





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