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1994年5月27日〜6月1日にかけ都内の某小学校で発生したカンピロバクター食中毒は,給食調理時のミスにより提供された未加熱の「鶏肉のホイル巻き」を原因食品とした特異な事例であった。
本食品は,5月26日にチーズと鶏肉をアルミホイルで包み,油で揚げて給食として提供されたが,1クラス分が未加熱の状態であった。教師が気付くまでに多くの児童が,その一部を食べており,26名中20名(77%)が発症した。加熱調理された同食品を喫食した他のクラスでは患者発生は認められなかった。
初発患者は給食を喫食後22時間,最も遅い患者は喫食後140時間で発症しているが,20名中15名は喫食後48時間〜72時間で発症している。
患者の主要症状は,下痢(95%),腹痛(80%),発熱(75%),頭痛(70%)であり,他に倦怠感,悪心,悪寒,嘔吐などがみられ,典型的なカンピロバクター腸炎の症状であった。下痢の便性状はほとんどが水様便で,粘液便や軟便がわずかに見られた。発熱はほとんどが38℃以上で,うち3名は40℃以上の高熱であった。
患者20名の糞便検査の結果,16名からCampylobacter jejuni(C. jejuni)血清型LIO2型が検出され,単一血清型菌による食中毒であった。非発症者6名中4名は鶏肉を喫食しておらず,残り2名は喫食したが発症しなかった。これらの非発症者は2回の菌検査によってもカンピロバクターは陰性であった。
発症後9〜17日後に全員を対象に再検査したところ,3名から初回と同一のC. jejuni LIO2型が検出され,医師の治療にもかかわらず排菌が認められた。また,1名からは初回に認められなかったC. jejuniの型別不能株,他の1名からはC. coliが検出された。この5名について約1カ月後に再度検査を実施したが,カンピロバクターはすべて陰性であった。
原因食品と考えられた未加熱の「鶏肉のホイル巻き」の残品はなく,加熱済みの同食品など8品目について行った菌検索では,カンピロバクターなどの病原菌は陰性であった。
調理過程において,生鶏肉をアルミホイルで巻く前にタレに鶏肉を30分ほど容器の中で漬け込んでおり,この際にC. jejuni血清型LIO2型が鶏肉相互に汚染したものと推察される。患者は同食品を1〜2口食べたか,なめただけ,あるいは,巻き込んであったチーズを喫食した程度で発症しており,鶏肉を汚染した少量菌で発症したものと考えられる。
東京都立衛生研究所微生物部
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