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1993年3月〜1995年6月初めまでに大阪市内の感染症サーベイランス定点病院において,麻疹様疾患患者41名からの麻疹ウイルス(MV)分離を試みた。サーベイランス定点での患者発生数は,1995年5月から市内4地区において次第に増加を始め,6月初めにおいては定点あたりの患者発生数が1.5〜4.5名に達した。
MV分離は48穴マイクロプレートに5%FBSを含むPRMI1640培地で単層培養したB95a細胞の2穴に,患者の咽頭ぬぐい液・うがい液約100μlを接種した。また,血液はヘパリン添加血からモノポリ分離溶液にてリンパ球・単球を分離し,1回洗浄ののち,約50μlを同様にB95a細胞に接種した。一部の材料についてはVero細胞にも接種した。その結果,B95a細胞から30株のMVを分離したが,Vero細胞では分離できなかった。B95a細胞接種後翌日に培地交換すると1〜2日後に特徴的なCPE(合胞体形成)を示すので,継代培養することなしに分離可能であった。なお,MVの同定は直接蛍光抗体法にて行った。
咽頭ぬぐい液・うがい液から20株,血液から10株のMVを分離した。このうち同時に両材料を採取できた8名の患者からのMV分離は,咽頭ぬぐい液・うがい液から3株,血液から7株が分離され,血液からの分離率が高いことが明らかとなった(表1)。検査材料中のMV量は咽頭ぬぐい液・うがい液では101〜102TCID50/ml,血液では102.3〜103.3TCID50/mlで血液中の方がウイルス量は多かった。
MV分離可能な病日は7病日までで,それ以降には分離できなかった(表1,図1)。患者の症状は,発熱(≦40℃),発疹,上気道炎,下気道炎などを示した。MV分離患者はワクチン未接種者がほとんであったが,麻疹様患者を示した既接種者6名のうち,MVが分離されたのは,19歳の男性で骨髄移植後に院内感染した1例だけであった。
分離した中森株のウイルスの性状については,モノクローナル抗体(K1)を用いた中和試験およびミドリザル赤血球のMV感染細胞に対する吸着(HAD)の結果,K1抗体に対する交差反応が低く,HADも弱いことが明らかとなり,1950年代のMV株とは抗原性が大きく異なることが明らかとなった(次頁表2)。さらに,分離した8株のMVについての免疫沈降反応試験からも,いずれの分離株もH蛋白およびM蛋白は,1950年代の流行株であるEdmonston株やToyoshima株に比べ,みかけの分子量が大きく,P蛋白は逆に分子量が小さくなっていることが示唆された。このように,最近分離されるMVは,以前のMVとはウイルスの性状がかなり異なっていることが明らかとなった。
大阪市立環境科学研究所 村上 司 春木孝祐 勢戸祥介 入谷展弘
大阪市立大学医学部医動物学教室 綾田 稔 小倉 壽
表1. 咽頭ぬぐい液・うがい液および血液からのMV分離成績
図1. 患者病日とMV分離
表2. モノクローナル抗体(K1)での中和試験および血球吸着試験
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