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本年8月末〜9月にかけて国立予防衛生研究所にファージ型別のために送付されたパラチフスA菌の解析から,ファージ型3によるパラチフスの広域流行が示唆された。本報告は発生状況の中間報告である。
1995年1月1日〜9月26日までに送付されたパラチフスA菌は49株である。うち輸入事例は22(45%),国内例は27(55%)であった。国内例のうち20例(74%)がファージ型3(PT3)によるパラチフスで,これまでに1都13県での発生が確認されている。PT3によるパラチフスの発生地域と件数は,埼玉県4,長野県3,秋田県2,茨城県,栃木県,群馬県,東京都,神奈川県,新潟県,山梨県,愛知県,岡山県,香川県および高知県で各1となっており,発生は広域にわたっている。患者の発病日による分布から発生のピークは8月であった(図)。わが国では従来,PT3によるパラチフスの発生は少なく,1990〜94年の5年間に3例のみであった(うち1はパキスタンからの輸入例)。分離株DNAのパルスフィールド電気泳動パターンによる解析では,1995年の流行株はすべて同一パターンを示し,原因を共にする広域流行であることが示唆された。また,1995年の流行株と過去の3株との間に同一のパターンを示すものは見られなかった。
今回の流行では発病から診定までに1カ月を費やしている例も稀でないため,患者はさらに増えることが推察される。患者から菌が検出された場合はできるだけ早くファージ型別のために菌株の送付をお願いしたい。さらに,発生の全貌を知り,原因を究明するためにも,患者の発病前の行動調査,喫食調査等,関係各位の御協力をお願い致します。
国立予防衛生研究所 細菌部外来性細菌室
中村明子 寺嶋 淳 伊藤健一郎
図 パラチフス患者の発病日による発生分布
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