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Vol.16 (1995/10[188])

<特集>
旅行者下痢症 1992.1〜1995.7


 近年の海外渡航者の増加に伴って,海外で罹患したいわゆる旅行者下痢症が増えている。それらのほとんどは細菌性下痢症で,原因菌の検出数は地研・保健所および検疫所から報告される。1992年以降の動向で目立ったのは,1995年前半の大幅な増加であった。

 1992年1月〜1995年7月までに報告された腸管系病原細菌のうち,コレラ菌O1,サルモネラ(チフス菌,パラチフスA菌を除く),病原大腸菌および赤痢菌について,海外旅行者からの月別検出数を地研・保健所,検疫所別に図1に示した。病原体別の月別発生パターンは両機関においてほぼ一致しており,いずれの病原体も検出のピークは1993年8月〜9月と1995年2月〜3月にみられた。とくに1995年のコレラ菌O1とサルモネラの増加が目だった。病原大腸菌の検出報告数は地研・保健所で多く,検疫所では少ない。地研・保健所では下痢症全般を対象として検査が実施されるのに対し,検疫所では主として検疫伝染病が検査の対象となっているためであろう。また,コレラ菌O1とサルモネラで,地研での検出数が検疫所の検出数を上回っているのは,検疫所では海外からの入国者のうち主として下痢現症者が検査対象となっているのに対し,地研・保健所では下痢現症者ばかりでなく接触者あるいは下痢既往者をも対象とした検便が実施されるためである。

 図2は1994年に主な旅行者下痢症について,疾患別に推定感染地を示したものである。いずれの疾患も東南アジアでの罹患が多く,サルモネラ腸炎の82%,病原大腸菌による下痢の55%,赤痢の39%,コレラの88%,パラチフスの43%および腸チフスの66%を占めた。インド亜大陸での罹患は赤痢とパラチフスで多く,それぞれ43%,38%であった。

 表1はコレラ患者発生数を推定感染国別,年次別に示したものである。いずれの年もアジア地域での感染が多く,1992年は発生総数の85%,1993年は97%,1994年は77%,1995年は98%がアジア地域での感染であった。1995年はインドネシア−特にバリ島−での罹患者が急増し,アジアでの罹患者312名のうち292名(94%)を占めた。近年,海外旅行者の増加に伴ってアジア地域への旅行者数も増加しているが,アジア地域内での渡航先国別の割合は,1992年1月〜1995年6月までの期間ほぼ一定で,1995年にインドネシアへの旅行者が特に増加したとは言えない(表2)。インドネシアで罹患したコレラ患者の増加はオーストラリアでも報告されている (本月報参照)

 1995年は旅行者下痢症からのサルモネラ検出数も急増した。東京都から報告されたバリ島旅行者からの腸管系病原菌検出状況をみても,サルモネラが最も多く検出されている (本月報Vol.16,No.4)。 1992年以降の旅行者下痢症からのサルモネラ検出数について,主な血清群の月別発生状況を図3に示した。1992年にはO4およびO7の検出数が多く,1995年にはO9およびO3,10の検出数が多かった。これまで,サルモネラによる下痢症のほとんどが国内発生であったが,今後は旅行者下痢症としてのサルモネラの動向にも注意を払う必要があろう。

 病原細菌検出数からみた旅行者下痢症の年次推移によると,1995年前半には上述以外の病原細菌による旅行者下痢症の増加も明らかになった(表3)。なお,1995年1月〜7月の旅行者下痢症の割合は39%,1994年同期間の割合は27%であった。



図1 病原細菌検出数からみた旅行者下痢症の月別発生状況1992年1月〜1995年7月
図2 旅行者下痢症の推定感染地,1994年
表1. コレラ患者の推定感染国別・年別発生数,1992〜1995年
表2. アジア地域への旅行者の渡航先国別割合,1992〜1995年
図3 サルモネラの血清群別・月別発生状況(地研・保健所輸入例)1992年1月〜1995年7月
表3. 病原細菌検出数からみた旅行者下痢症の年次推移(地研・保健所)





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