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レジオネラ症の主要な感染源はビルの冷却塔水である。この冷却塔水は水温が30℃前後で微生物の増殖には格好の環境となっており,Legionella属菌は105/100ml にまで増殖する場合も知られている。最近,Legionella汚染に関して重要視されているのが同じ冷却塔水に生息する微生物,特に自由生活性アメーバ類(以下アメーバ類)などの原生動物である。すなわち,本属菌は外界にあってはアメーバ類などを宿主として増殖するという実体が明らかになったからである。これは同時に宿主であるアメーバ類を考慮しないままでのLegionella汚染対策はあり得ないことを意味する。
今回,我々が全国180基の冷却塔を対象に行った調査によって,冷却塔水がアメーバ類に広く汚染されており,Legionella属菌の定着と増殖に密接に関係していることが示唆された。以下にその要点を述べる。
1)Legionella属菌は40%(72/180)の冷却塔水より検出され,21%(37/180)の冷却塔水は殺菌,洗浄等適切な措置が必要とされる数のLegionella属菌(103-4/100ml以上)が検出された。
2)アメーバ類は90%(162/180)の冷却塔水より検出され,8科にわたるアメーバ類が確認された。
3)Acanthamoeba,HartomannellaやNaegleriaなど宿主となることが確認されているものが検査した冷却塔全体のそれぞれ20%(36/180),63%(113/180),53%(96/180)から検出された。
4)Legionella属菌の検出率はアメーバ陽性の冷却塔水で43%(69/162),陰性の冷却塔水で17%(3/18)であった。
5)抗レジオネラ剤等により処理された冷却塔水からのLegionella属菌の検出率は28%(28/99),一方,未処理群での検出率は54%(44/81)であった。
6)アメーバ類は抗レジオネラ剤処理の冷却塔から88%(87/99)の率で,また,無処理の冷却塔からは93%(75/81)の率で検出されており,両者の間で顕著な差は認められなかった。したがって,現行の抗レジオネラ剤処理は冷却塔水中のアメーバ類に強い薬効を示さないものと判断された。
現行のLegionella汚染防止にはもっぱら冷却塔水中に遊離した菌を対象として対策が講じられている。しかしながら,本属菌の生態が明らかにされるにつれてアメーバ類などの宿主生物を含めた総合的な汚染対策がより重要な課題として提起されるに至ったものと判断される。我々の予備実験でLegionella属菌には殺菌効果を持たない一部の薬剤が冷却塔水では本属菌の増殖抑制効果を示すことが分かっており,その総合的作用機序の解明には興味がある。このような薬剤を含めて安全かつ有効な微生物学的汚染防止策の開発とその実行が急がれる。なお,冷却塔水に関してはいまだに微生物学的に不明な点が多く,検査体制の整備や微生物学的な基準の策定など対策上重要な問題を抱えていることを最後に付け加えておきたい。
予研寄生動物部原生動物室
遠藤卓郎 八木田健司
アクアス株式会社技術一部
縣 邦雄
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