|
1994年9月にオーストラリアのブリスベーン,ヘンドラの競走馬厩舎で馬14頭に急性の致死的呼吸器疾患が起こり,その厩舎の調教師と助手も発病し,そのうち調教師が死亡する事件が起きた。その原因ウイルスはそれまで知られていなかった新しいモービリウイルス(馬モービリウイルスequine morbillivirus:EMV)によることが明らかにされている。その後,本症の発生は見られていなかったが,本年10月21日に王立ブリスベーン病院で死亡した男性が同じEMV感染を受けていたことが明らかになった。
以下はこの件についてオーストラリア獣医局長(Chief Veterinary Officer)が10月25日に国際獣疫事務局(International Office of Epizootics:OIE;別名World Organization for Animal Health)に報告した内容と,現地の新聞記事の抜粋である。
1. OIEへの報告:北クイーンズランドのマッケイの近くの35歳の農夫が10月21日に王立ブリスベーン病院で死亡した。この男性は約12カ月前に髄膜脳炎にかかり,回復したようにみえていたが,脳炎の症状で5週間前に入院した。患者の血清に高いEMV抗体が検出され,死亡前に採取された髄液についてのポリメラーゼ連鎖反応(PCR)でも陽性であったことから,EMV感染と診断された。
この男性は1994年8月に農場で処分された2頭の馬の解剖を手伝ったことがあり,これらの馬は当時,それぞれアボカド中毒と,毒蛇に噛まれたものと診断されていた。このうち,後者の固定組織ブロックについて直接蛍光抗体法とPCRを行った結果,EMV感染が明らかになった。
1994年のヘンドラでのEMV感染の発生の後,マッケイの馬で異常な病気は起きておらず,クイーンズランドでもEMVを疑わせるような病気は起きていない。マッケイ周辺の農場は現在隔離中である。
2. 新聞報道:オーストラリアの新聞は厚生大臣の談話として以下のことを伝えている。これまでの知見からこの男性は非常に感染性の低いウイルスに感染していた。その感染は病気または死亡した馬の体液との接触によるものと考えられる。病院内での感染の拡がりを防止する対策はもちろんとられている。これまでに人から人への伝播が起きた例は全くない。昨年死亡した調教師ビック・レイル氏が感染した地域で働いたり,住んでいた人および病院で看護にあたった人,約200人についてウイルス検査を行ったが,陽性例はひとつもなかった。
日本生物科学研究所 山内一也
|