HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.17 (1996/1[191])

<国内情報>
1995/96インフルエンザシーズン初期における流行ウイルスと集団発生の広がり方−神戸市


 1995年1月17日の震災に際しましては,予研をはじめ,全国の地研の皆様方から賜りました物心両面にわたる御援助に心より御礼を申し上げます。

 御陰で,上・下水道やガスがまだ不通でしたけれど,ウイルス検査等も2月初めより全面再開にこぎつけられました。また震災直後には,厚生省の派遣団の皆様にはインフルエンザ調査と被災高齢者へのワクチン接種で大変お世話になりましたことを合わせて御礼申し上げます。

 1995年11月21日に発生した学級閉鎖の患者よりA(H1)型ウイルスを分離し,同24日に報告したのが,今季全国で最初の分離例となったのも何かの御縁かもしれませんので,経過を御報告し,御礼の一端に替えさせて頂きます。

 患者情報:神戸市は東側を大阪に近い阪神地域,西側は東播磨地域,北側を北摂・丹波地域,南側は海をへだてて震災の震源地の淡路島に囲まれています。表でわかるように11月上旬から市外の東西で学級閉鎖が発生しておりましたが,市内では発生もなく定点の患者数も目立った動きはありませんでした。

 11月20日になって市内西区の小学校で全校生954名中122名が欠席する集団かぜが発生し,翌日から2クラスが学級閉鎖となりました。また同日,約4q離れた所にある同区内の幼稚園でも24名中13名が欠席したクラスが出ております。

 最近わかったことですが,この前週には定点患者数が西区で急増しておりましたが,これは市の西隣りの東播磨地域から神戸市の西区へかぜが移ってきたものと思われます。

 市内各区で初発学級閉鎖日を調べると,震災による住民数の減少が影響したのか,一部例外はあるものの,西から東へ(表の左から右へ)線的に集団発生が拡大したと考えられます〔なお市の東部地区では例年どおり,大阪や阪神地域から(東から西へ)伝播したのかも知れません〕。

 定点の患者情報でも同じ傾向が見られ,西区では12月に入って今回のピークを過ぎ,より東側の地区で患者が増えてきました。市内ではJRや地下鉄,道路など東西の交通路に沿った社会生活上の人の移動が,遠方への学級閉鎖に象徴される線的伝播を引き起こしたと考えられます。

 したがって,行動範囲の狭い学童は主として同一区内での面的伝染を担い,より遠距離間の線的伝播は主に成人が果たしたものと推察されます。

 インフルエンザの国内への伝播も,これからは中国南部由来以外にも諸外国ヘの旅行者による持ち込み等,ルートが複雑になる可能性が考えられます。

 ウイルスの性質:最初に学級閉鎖した小学校の2年生の患児6名のうがい液をMDCK細胞に接種し,トリプシン添加の培養で初代で3株,2代培養で2株の計5株のウイルスを分離した。3種類の血球を用いてHA反応を行ったところ,モルモットとヒトの赤血球では凝集するが,ニワトリ赤血球ではHA価が得られなかった。したがって,モルモットとヒトの血球を用いHI反応を行い,5株ともA(H1)型と同定した。

 フェレット免疫血清で調べた結果では,分離株はホモのワクチン株と比べ,HI価で1管程度低いだけであった(両血球とも)。

 昨シーズンの10月に分離されたA/大阪/539/94はワクチン株や近年の分離株とはHA抗原がかなり異なっていて流行が心配されたが,今季の分離株もワクチン株類似のものであった。

 市内での流行はかなり大規模で12月15日現在,40検体中26株のA(H1)株を分離している。集団の免疫状態よりも,ウイルスの持つ感染力が勝った結果と考えられ,ヒトのHI抗体価による流行予測や流行株の推定のむつかしさを考えさせられた。



神戸市環境保健研究所 安井 治
神戸市衛生局保健予防課感染症予防係 橋詰幸一 西谷 寛


神戸市および隣接地域別インフルエンザ様患者発生状況 閉鎖学級数(患者数)





前へ 次へ
copyright
IASR