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Vol.17 (1996/1[191])

<国内情報>
都内における非細菌性胃腸炎集団発生からの小型球形ウイルスの検出(1995年9〜11月)


 例年冬季に多発する非細菌性急性胃腸炎の原因物質として,小型球形ウイルス(SRSV)が高頻度に検出されている。ここでは,今シーズンの前半(1995年9〜11月)に発生した集団事例についての検索成績を報告する。SRSVの検出は,電子顕微鏡(EM)によるウイルス検索のほか,1st PCRにはプライマー35/36,2nd PCRにはNV81/NS82を用いたnested-PCR法を用いた。PCR法に用いたウイルス核酸の抽出は,従来から用いているCTAB法によった。

 表に示したように,この期間中に発生した事例は合計10事例であった。これらの事例から,検査材料が得られた56名の患者について調査を行った。その結果,8事例がSRSVによる事例と判定された。また,患者別にみると,このうち30名がSRSV陽性であった。検査法について比較すると,EM法では事例数で3件,患者数で6名(11%)がSRSV陽性であった。これに対し,PCR法では事例数の80%に当たる8件,患者数では54%に当たる30名が陽性で,ともにEM法に比べ高率であった。

 発生施設別にみると,学校が2事例,宿泊施設が4事例,飲食店が2事例,家庭内が2事例であった。この中で,小学校における1事例は給食の関与が疑われたので,発生状況の概要を紹介する。

 この事例は都内中野区の某小学校での発生例で,1995年10月26日,在校性407名中48名が欠席し,さらに登校している児童の中にも胃腸炎症状を訴える児童が多いことが報告された。欠席者および患者は5年生を除いたすべての学年に認められた。5年生だけは10月24日の給食を,社会科見学のため喫食していないことが判明した。また,10月24日には父兄の給食試食会があり,この中からも発症者が認められた。最終的に,喫食者410名中105名が胃腸炎症状を呈し,発症率は26%であった。学校給食は10月27日(金)を中止とした結果,その後の児童の欠席は10月30日以降14名と平常に戻り,事件は終息した。胃腸炎患者20名の糞便および給食調理者1名のペア血清について検査を行った。その結果,患者の糞便20件のうち,9名からSRSVが検出され,また,調理者ペア血清は患者から検出されたSRSVに対し,抗体が上昇していることが免疫電子顕微鏡法により確認された。これらの成績から,この事例は10月24日の給食を原因食とする集団胃腸炎事例であり,SRSVに起因するものであったことが判明した。

 この集団事例の発生当初は,感冒と食中毒の両者を疑って調査が開始されている。学校施設におけるウイルス検索においては,今回のように糞便,血液等の材料を採取し,総合的な調査がこれからも必要と考えられた。



東京都立衛生研究所ウイルス研究科
林 志直 佐々木由紀子 関根整治


都内の非細菌性胃腸炎集団事例からのSRSV検索成績





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