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Vol.17 (1996/2[192])

<国内情報>
RT-PCR法による貝類からのノーウォーク様ウイルス遺伝子の検出−静岡県


 非細菌性急性胃腸炎の病因物質として注目されている小型球形ウイルス(SRSV)の検索は,主に患者の糞便材料を対象とし,電顕観察によるウイルス粒子の形態的な特徴に基づいて行われてきた。しかし,原因食品および推定食品などのSRSV汚染を追求するためには,より感度の高い検査法が求められている。

 最近,SRSVの1種であるNorwalk virus(NV:ノーウォーク・ウイルス)の遺伝子の塩基配列を基にしたRT-PCR法が開発され,微量のウイルスの存在を遺伝子レベルで確認できるようになった。そこで,静岡県内で冬季に発生する非細菌性の集団急性胃腸炎事例における貝類の関与の実態を把握するため,この検査法を県内で流通している生食用貝類(主に生食用カキ)および県内の海域で採取された貝類に適用したところ,ノーウォーク様ウイルス遺伝子を検出し得たので報告する。

 調査の対象とした材料のうち市販生カキ(産地はA,B,C,D,E,F,G,Sの8カ所)は,1994年10〜12月,1995年1〜3月と9〜12月に静岡市内のスーパーなどで「生食用」として,むき身の状態でパック詰めされ,10℃以下に保存されていた73検体,ホタテ貝(産地はB,1カ所)は1995年8月と10月に購入した生食用殻付の4検体を供試した。また,県内の海域で1995年6〜9月に採取したカキおよびムラサキイガイ(いずれも殻付)を6検体検査した。

 検査法は,貝類の中腸腺(市販生カキは5〜10個をプールしたもの,殻付のものは3〜10個をプールしたもの)部位のみを対象とし,試料は糞便の電顕試料作製方法の前処理に準じて作製した。すなわちPBS(−)で調製した10%の乳剤をフルオロカーボン処理後,30%ショ糖上に重層させ,40,000rpm/120分間超遠心し,その沈渣をJiangら(1992)が報告したCTAB法によってRNAを抽出,NVのポリメラーゼ部位を増幅するプライマー35/36(J. Wangら,1st,470bp)とプライマーNV81/NS82(Y. Hayashiら,Nested,330bp)を用い,RT-PCRを行った。

 その結果,1994年10月〜1995年12月の期間に静岡市内で販売されていた「生食用カキ」の中腸腺73検体中20検体(27%)からノーウォーク様ウイルス遺伝子の存在を確認し得た。産地別では8カ所中5カ所から検出し,月別では1994年10月〜翌1月にかけて検出できた。また,9月に県内の海域で採取されたその他の貝類6検体中2検体(天然カキおよびムラサキイガイ)から検出した(表)。

 今回,RT-PCR法を用いた調査により,非細菌性の急性胃腸炎の原因として注目されているノーウォーク様ウイルス遺伝子を生カキなどから高率に検出することができた。この方法がウイルスによる食品汚染とその感染症との関連を明らかにする手段として有用であり,冬季に発生する集団急性胃腸炎の一部が貝類のSRSV汚染に起因していることが示された。



静岡県衛生環境センター微生物部
杉枝正明 秋山真人 西尾智裕 長岡宏美 赤羽荘資 服部 坦
国立公衆衛生院 中島節子


表 RT-PCR法による貝類材料からのNV遺伝子の検出状況
図 アガロース電気泳動写真





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