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近年の赤痢は国外感染が多く,その中でもS. dysenteriaeやS. boydiiはほとんどが海外からの輸入事例である。検出数もそれぞれ赤痢菌全体の5%に満たずまれである。今回,インドネシアへの団体旅行帰国者5名からS. boydiiが検出されたので概要を報告する。
(1)患者発生状況
1995年11月29日,長井市内の医療機関より赤痢発生の届け出があり,長井保健所に防疫対策本部が設置された。患者は,山形県小国町に在住の46歳の女性,会社員で,1995年11月18日〜23日までインドネシアに団体旅行で滞在。23日早朝より発熱(38℃),下痢(水様性),悪寒,吐き気の症状があり,24日に長井市内の医療機関で受診。29日にC1多価血清に凝集する菌を分離した(API20EでShigella spp.)。保健所で血清型別をしたところ加熱菌でC亜群の9(赤痢菌免疫血清『生研』Lot No.48による)に凝集がみられた。患者を西置賜伝染病院に隔離収容するとともに接触者の検便を実施した。
患者の家族3名,ツアー同行者18名,症状のあったツアー同行者の家族12名の検便を実施したところ,ツアー同行者4名より同菌を検出した。1名が21日,2名は23日から発症しており,また,1名は保菌者であった。症状は前ページ表のとおり。その4名の家族9名と接触者20名の検便を12月2日より実施したが,その後,赤痢菌陽性者はみられず,12月7日防疫対策本部を解散した。
(2)分離菌の性状
分離されたS. boydiiの薬剤感受性のMICは,前ページ表のとおりである。患者Bのパターンが若干異なるが,これは発症日が早く,現地で医療機関にかかって薬剤(FORTE)を投与されていたためと考えられる。隔離収容された患者はSPFXを投与された。生化学的性状は同一であり,インドール反応陰性の菌株であった。
今回の事例の感染経路は不明であった。また,ツアー同行者が検疫所を通過するとき既に有症者がいたが,自己申告しなかったため,検査は実施されていなかった。帰国後,症状のあった同行者が医療機関で受診していたが,赤痢菌を検査していないため発見が遅れた。幸い,行動をともにしたツアー同行者のみの感染で,家族等への二次感染はなかった。近年の海外交流の増加により,感染症の輸入事例が多いことから,旅行者および旅行業者への衛生教育・指導のより一層の強化が必要と思われた。
山形県長井保健所 石川ゆみ 有海清彦
山形県米沢保健所 山田敏弘
山形県衛生研究所 村山尚子 大谷勝実
長井市立総合病院 伊藤千栄子
表
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