HOME 目次 記事一覧 索引 操作方法 上へ 前へ 次へ

Vol.17 (1996/4[194])

<国内情報>
輸入感染症と思われるレプトスピラ症の1例―沖縄県


 ワイル病に代表されるレプトスピラ症は,Leptospira interrogansによる人畜共通感染症で,散発的に重症例もみられる。特に沖縄県では患者の発生報告が他の地域に比べて多く,家畜の本症もみられるために,公衆衛生上重要な疾病の一つである。

 今回,タイから帰国後に発症した血清群Pomonaによるレプトスピラ症を経験したので報告する。

 症例:患者は沖縄県宮古島に在住するダイビングインストラクターの男性(39歳)で,1995(平成7)年10月26日,トライアスロン参加のためタイへ渡航,28日に大会種目の水泳を淡水で行った。29日の帰国時には特に症状がみられなかったが,感染が疑われる日(10月28日)から15日目の11月11日に40℃の発熱が出現した。14日には悪寒戦慄を伴ったために,宮古病院救急室を受診し,そのまま入院となった。発熱源検査のため抗生物質は使用しなかったが,解熱したため18日退院となった。この患者の淡水との接触は現地での水泳のみで,動物との接触は発症の1年前から生直後の猫をもらいペットにしていることのみである。

 検査結果:ペア血清(急性期11月15日採血,回復期11月30日採血)はマイクロカプセル凝集反応(MCAT)および,当所所有の標準株21株を用いた顕微鏡的凝集反応(MAT)により抗体検査を行った。MCATでは急性期がA試薬,B試薬ともに陰性,回復期は両試薬とも陽性(3+)であった。MATはPomona株(血清型pomona)に対して,抗体価の有意上昇がみられた。

 急性期の血液を培養(コルトフ培地)したところ菌体が確認されたために,継代を続け当所所有の標準抗血清14血清型とMATを行った結果,抗Pomona血清に対して特異的に凝集がみられた。

 まとめ:患者の在住する宮古島からの本症の報告は初めてであり,わが国における血清群Pomonaの分離症例も初の報告と思われる。感染地としてはタイが最も疑われ,患者の感染動機(海外でのイベント参加)から,今後同様な患者の発生が予想される。国際交流が盛んになる現在,輸入感染症としても重要な疾病と思われる。



沖縄県衛生環境研究所 大城直雅 大野 惇 安里龍二 徳村勝昌
沖縄県立宮古病院 平良恵貴 川満克紀





前へ 次へ
copyright
IASR