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Vol.17 (1996/6[196])

<国内情報>
山形県内で発生したShigella flexneri血清型88-893による赤痢について


 近年,上下水道等の環境設備の充実および衛生思想の向上により,赤痢の集団発生は激減している。しかし,海外渡航による散発的な赤痢患者の発生が多くなっている。今回,患者発生状況および菌型から海外で感染した可能性が非常に高い赤痢患者の発生を報告する。

 (1)患者発生状況

 1996年2月29日,河北町内の医療機関より赤痢患者の届けがあり,防疫活動を開始した。患者は村山市内に在住の77歳の女性(以下患者A)で,2月24日から腹痛,水様便,発熱の症状があり,25日に同医療機関の救急外来を受診した。症状が改善しないため26日近所の医院を受診,河北町内の医療機関を紹介され,同日入院,検便を行った。便検査の結果,赤痢菌の症状を示す菌が検出され,抗血清ではB多価に凝集がきたが,単一血清には凝集しなかったことから,衛生研究所に分離菌株の同定が依頼された。依頼菌株は,BBL CRYSTALID Systemsでも赤痢菌と判定され,PCRで細胞侵入性の遺伝子を確認したが,赤痢菌の単一血清に凝集を示さなかった。これらのことから,医師は赤痢菌の疑いが濃厚であるとして,29日臨床決定により赤痢患者として届け出た。

 当該保健所では,2月29日から患者Aの家族について検便および聞き取り調査を実施した結果,患者Aに海外渡航歴はなかったが,その夫(73歳)が1996年2月7日〜18日まで同行者6名(管内3名,県外3名)のインド旅行をしていたことがわかった。3月3日に夫(以下患者B)の便より,患者Aから検出された赤痢菌と同一性状の菌が検出されたため,患者Bも同日伝染病院に隔離収容した。患者Aおよび患者Bの接触者,特に患者Bがインド旅行中に感染した可能性が高いので,患者Bの旅行同行者6名についても注視し,管内3名については当保健所で検便および健康調査を行い,県外3名については,本庁を通じて当該県に健康調査等の照会を行った。しかしながら、それらの検便の結果は陰性であった。患者Bは,19日から下痢,発熱等の症状があり,20日に近くの医院を受診し,処方薬を3日間服薬,さらに21日に河北町内の医療機関を受診し,処方薬を5日間服薬した。24日には症状は治まった。21日,河北町内の医療機関で行った検便の結果は陰性であった。しかし,3月1日より再び下痢,発熱等の症状が現れ,3月3日保健所での検便で,同一の菌を検出した。その後患者Aおよび患者B以外に患者は発生せず,3月8日に終息を決定した。

 (2)分離菌の性状

 分離菌は,衛生研究所から東京都立衛生研究所に血清型別の依頼をした結果,S. flexneri型抗原88-893型,群3,4抗原と型別された。生化学的性状はTSI,SIM,クリステンゼン−クエン酸塩,バイオテスト1号により行った。

 TSI;−/A ガス(−),SIM;インドール(−)運動性(−)硫化水素(−),クリステンゼン−クエン酸塩(−),オキシダーゼ(−),ONPG(−),IPA(−),VP(−),クエン酸(−),リジン(−),オルニチン(−),アルギニン(−),尿素(−),マロン酸(−),ブドウ糖(+),マンニット(+),アドニット(−),アラビノース(+),イノシット(−),ラムノース(−),ソルビット(−),麦芽糖(−),白糖(−),硝酸塩(+),MUG(−)

 薬剤感受性は,昭和ディスクにより実施した。患者A,B株のMICは次のとおりであった。CMZ;0.5,0.5,CEZ;1,0.5,SBPC;64,32,ABPC;16,16,MINO;,1,4,TC;16,32,GM;1,1,SM;≧128,≧128,IPM;0.12,0.12,CZX;≦0.06,≦0.06,Nd;0.5,0.5,OFLX;0.12,0.12

 今回のケースは,菌型および疫学調査から,患者Bがインド旅行中に感染した可能性が非常に高かったが,患者Bを最初に診察した医師からの届けがなく,また,29日の時点で同患者の症状が無かったため,旅行同行者の検査ができず,防疫活動日数が長くなった。今後,海外旅行者および旅行業者等への衛生教育,指導の強化は当然であるが,医師の的確な診断および迅速な届出が重要と思われる。



山形県村山保健所 佐藤 勲 浅沼貞一 後藤裕子
山形県立河北病院 高橋由美 草刈まゆみ
山形県衛生研究所 村山尚子 大谷勝実





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