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Vol.17 (1996/6[196])

<特集>
細菌性赤痢 1993〜1995


 厚生省大臣官房統計情報部の伝染病統計によると,1993年および1994年の2年間に伝染病予防法に基づいて届けられた赤痢患者は,1993年は総数1,120人で,細菌性赤痢968(86%),アメーバ性赤痢152(14%);1994年は総数1,042人で,細菌性赤痢892(86%),アメーバ性赤痢150(14%)であった。

 図1は細菌性赤痢の感染地別患者数を示したものである。1993年および1994年の国内感染例はそれぞれ39%および23%であった。輸入感染地別ではアジア地区がそれぞれ52%および66%で,アジア地区からの輸入例がその大半を占めたのは例年どおりであった。両年ともインド,インドネシアおよびタイの順で上位を占めたが,この順位はそれ以前までとはかならずしも同じではなかった(平成2年伝染病統計参照)。

 細菌性赤痢患者の年齢分布では,両年とも20〜29歳が最も多く,全体の約半数を占め,次いで30〜39歳および0〜9歳がそれぞれ10%前後で続いた。

 1994年および1995年における病原微生物検出情報(地研・保健所集計)の赤痢菌の月別検出状況によると,その検出ピークは1994年は4月および12月,1995年は11月であった。また,そのピークはソンネ菌(Shigella sonnei)の検出とよく一致した。(図2)。

 1994年および1995年に病原微生物検出情報に報告された細菌性赤痢集団発生事例によると,この期間に発生した10事例中5事例はS. sonneiがその原因であった(表1)。

 都市立伝染病院に入院した細菌性赤痢患者の主な臨床症状を,国内例,輸入例別に表2に示した。いずれも主症状は腹痛と水様便であった。

 図1にみられるように,わが国における細菌性赤痢の多くは,国外からの輸入感染によることが示唆された。

 1994年および1995年の2年間に病原微生物検出情報に細菌性赤痢の事例報告として掲載されたものは次のとおりである。

 (1)ペット用サルに起因した赤痢のヒトへの感染事例で,その疫学調査,薬剤感受性および病原性因子の解明により,サルからヒトへの感染が証明された(本月報Vol.15,No.1参照)

 (2)家族内感染事例で,初発患者は女児(7歳)で,敗血症性ショックと診断され,2病日の便からS. flexneri 2aが分離された。その後の疫学調査で,母親,祖母も発病し,両者からも同一菌が分離された。しかしながら,感染源の特定はできなかった(本月報Vol.15,No.6参照)

 (3)千葉,埼玉および茨城の3県にまたがる赤痢の国内感染例で,真性赤痢41人,擬似赤痢15人,合計56人が発症し,原因菌はS. sonneiが検出された。本事例は複数の県にまたがっての発生例で,その後の疫学調査の困難さが指摘された(本月報Vol.16,No.4参照)

 (4)わが国における最初のfluoroquinolone耐性赤痢菌による散発事例報告で,今後の当該菌の監視と全国的な疫学調査の必要性が指摘されている(本月報Vol.17,No.3参照)

 (5)S. boydiiによる海外渡航者での集団事例で,ツアー同行者18名中5名に発症がみられたが,家族内での二次感染は認められなかった。近年の海外旅行の増加にともなう輸入感染症に対して,改めて関係者の衛生教育・指導の強化を指摘している(表1事例9および本月報Vol.17,No.4参照)



図1. 感染地別細菌性赤痢患者数 1993年,1994年
図2. 月別赤痢菌検出状況(地研・保健所集計)
表1. 細菌性赤痢集団事例 1994年,1995年
表2. 細菌性赤痢の臨床症状(都市立伝染病院,1994年,1995年)





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