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食品衛生調査会食中毒部会大規模食中毒等に関する分科会における病原性大腸菌O157による食中毒に関する緊急検討結果について
本日,標記分科会において病原性大腸菌O157による食中毒について検討され,下記のとおり意見がとりまとめられた。
記
1.本年に入り5月下旬より続発している病原性大腸菌O157による食中毒の発生防止策としては,既に厚生省が6月6日および6月12日に通知した内容を遵守させることが妥当であること。したがって,各自治体に本通知の徹底を図るよう周知することが肝要であること。
2.また,国民に対して病原性大腸菌O157についての正しい知識の普及を行うことが,本菌による食中毒の未然防止や被害拡大の防止,更には不安の解消に必要であることから,本菌の特徴や予防策等についてわかりやすく解説することが肝要であること。(別紙参照)
3.本菌による食中毒が発生した場合,二次感染等の被害拡大の防止を図る意味からも,特に血便を伴う下痢症を診察した場合には,病原性大腸菌O157による可能性を疑い,その検査を行うことが肝要であること。
4.今回の一連の本菌による食中毒事件については,関係自治体において調査が進行中であり,現在までに原因食品は特定されていないが,喫食されたもののうち,一連の事件間で同一のものは認められないこと。
5.過去に発生した10例の病原性大腸菌O157による食中毒等の事故の原因は1例を除いて不明であるので,原因の究明に必要な方法等について,今後,食品衛生調査会で検討を行うこと。
6.厚生省は関係省庁と連携を密にし,さらなる情報収集に努め,大規模食中毒の防止対策等について,引き続き食品衛生調査会において検討を行うこと。
(別紙)病原性大腸菌の予防対策等について
1.病原性大腸菌とは
大腸菌は,正常な人の腸にも存在する細菌ですが,最近,数県において発生し,死亡者まで出している大腸菌は,病原性大腸菌O157と分類されています(正確には,死亡者を出すような毒性の強い菌は「大腸菌O157:H7」と細かく分類されています)。この菌による下痢は,はじめは水様性ですが,後には,出血性となることがあることから,腸管出血性大腸菌とも呼ばれています。
この菌は,ベロ毒素と言われる毒素を産生することが特徴で,これにより腎臓や脳に重篤な障害をきたすことがあり,菌の感染力や毒力は,赤痢菌なみと言われています。
これまでわが国で報告されている死者は,全て乳幼児および小児ですので,乳幼児,小児や基礎疾患を有する高齢者の方(以下,「乳幼児等」と略します)では,重症に至る場合もあるので,特に注意を要します。なお,本菌は家畜等の糞便中に見つかることがあります。
2.わが国での発生状況等について
この菌は,アメリカで1982年ハンバーガーを原因とする集団下痢症が起こったときに,はじめて患者の糞便から見つかりました。
日本においては,1990年に埼玉県浦和市の幼稚園で汚染された井戸水により死者2名を含む268名におよぶ集団発生が報告された以降,注意を要する食中毒の原因菌として知られています。
平成7年度までに,わが国でもこの菌により10件の集団食中毒等の事例が報告されて,合計3名の死者が出ています。
3.予防対策は
本菌を含む家畜あるいは感染者の糞便等により汚染された食品や水(井戸水等)の飲食による経口感染がほとんどですが,この菌は,他の食中毒菌と同様熱に弱く,加熱により死滅します。また,どの消毒剤でも容易に死滅します。なお,以下のことを行えば,感染を最小限に食い止められますので,心配はいりません。
(1)感染予防には,以下のことが有効です。
@食品の保存,運搬,調理に当っては,衛生的取り扱い,かつ,本菌による汚染が心配されるものについては,十分な加熱を行ってください。
A食品を扱う場合には,手や調理器具を流水で十分に洗ってください。
B飲料水の衛生管理に気を付けてください。特に,井戸水や受水槽の取り扱いに当っては,注意してください。
(2)なお,万一,出血を伴う下痢を生じた場合には,以下の事項に気を付けてください。
@ただちにかかりつけの医師の診療を受け,その指示に従ってください。乳幼児等は特に注意してください。
A患者の糞便を処理する時には,ゴム手袋を使用する等衛生的に処理してください。また,患者の糞便に触れた時には,触れた部分を逆性石鹸や70%アルコールで消毒した後,流水で十分洗い流してください。
B患者の糞便に汚染された衣服等は,煮沸や薬剤で消毒したうえで,家族のものとは別に洗濯し,天日で十分に乾かしてください。
(3)患者がお風呂を使用する場合には乳幼児等との混浴を控えてください。
HUSの診断・治療のガイドライン
T.HUSは血小板減少,破砕状赤血球を伴う溶血性貧血,腎機能障害を三徴とする症候群であり,いろいろな成因によっておこると考えられている。小児では下痢,血便によって発症し,乳幼児に多くみられ,比較的予後の良い型(以下典型例)が最も多くみられる。最近では大腸菌O157:H7による出血性大腸炎に伴う事が最も多いと考えられている。その他,家族性発症例,再発例先天性素因にもとづく症例,肺炎球菌感染後に発症する症例,膠原病,ネフローゼ症候群,腎移植等に伴う二次的なもの,シクロスポリン,経口避妊薬等の薬剤に伴う症例がみられる。
U.典型例HUSの診断
下痢,血便で始まり,数日〜数週以内にHUSが発症する。以下の症状がみられた時は疑う。
1.乏尿あるいは無尿
2.意識障害,けいれん
3.浮腫
4.その他比較的少ない症状:肉眼的血尿,黄疸,出血斑
疑った場合以下の検査を行なう。
1.血色素量,ヘマトクリット,赤血球数,白血球数,血小板数,血液像で破砕状赤血球の有無
2.腎機能(BUN,血清クレアチニン),一般尿検査
3.肝機能(GOT,GPT,LDH),ハプトグロビン
4.便培養
(5.O157およびベロトキシン抗体価用血清保存,ベロトキシン用便凍結保存)
V.典型例の治療
1.対症療法以外に効果のある治療は現在のところ明らかでない。無治療でも軽快することが多いため,種々の治療(血漿輸注,プロスタグランディン製剤,抗血小板剤,ヘパリン,FOY,血漿交換等)を行なう際には副作用に十分注意することが必要である。
2.輸血,血小板輸血
HUSの急性期は急激に溶血が進むため,血清LDHの高い時等は1日2回以上,貧血の進み具合を見る必要がある。輸血はすでに溢水状態にある時,血圧の高いとき,無尿時は危険があり,注意して行う必要がある。この時は透析下で行なう方が安全である。通常は血色素6g/dl以下か,或いは急速に進む貧血のみられる時に行なう。
血小板輸血はHUSを悪化させる可能性もあり,また血小板数のわりに出血傾向がみられる事は少ないため,出血傾向の認められる時のみが望ましい。
3.輸液
下痢,血便,嘔吐のため脱水になる例がみられるが,脱水の補正には低ナトリウム血症に注意する必要がある。無尿,乏尿例では比較的強い脱水は少なく,過剰輸液に注意する。
4.透析
透析はあくまでも対症療法である。溢水,低ナトリウム血症,高カリウム血症,強いアシドーシス或いはBUN 100mg/dl以上がみられ,透析をしなければ補正できない時(通常無尿の時)に適応となる。
腹膜灌流が乳幼児では安全で適している。行なう時は専門家と相談する事が望ましい。
5.けいれん重積
けいれんがセルシン等の治療でControlできない時は早期に呼吸管理と共にラボナール等でControlする。
6.高血圧
溢水による事がほとんどであり,利尿剤等でControlできない時には透析で除水する。
輸血,血漿輸注は悪化させるので注意する。
十分な除水を行なってもControlできない時はカプトプリル等の降圧剤を使用する。
7.腸障害
急性期血便,腹痛の強い時の腸穿孔,回復後の腸狭窄等には注意する必要がある。
W.典型例の予後
典型例の予後は比較的良好である。
急性期死亡は腎不全のControlが良くなり改善されてきたが,脳障害,腸穿孔での死亡が最も問題である。5%程度が急性期死亡,5〜10%が一時回復しても最終的に末期腎不全に至ると考えられる。また完解しても成長に伴って蛋白尿,高血圧,腎機能障害が出現することがあるので成人になるまで定期的検査を行なう必要がある。脳障害を残す症例も5%前後あると考えられる。特に無尿例,けいれん併発例の予後は悪く注意が必要である。
X.非典型例
非典型例は,顔色不良,黄疸,出血斑,肉眼的血尿などで発症する事が多い。予後は悪い事が多く,高血圧のControlが難しい散発例や脳障害で死亡する症例があり注意を要する。
腎組織で小動脈,中動脈の変化の強い例は予後不良であるため,腎生検を行なうことが望ましい。治療は血漿輸注が効果がある事もあり,10ml/kg程度を入れて効果をみるのも一つの方法である。予後不良と考えられる例では血漿交換,プロスタグランディン製剤治療も試みられているが,効果については一定の見解は得られていない。
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