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Vol.17 (1996/8[198])

<国内情報>
スッポンが原因と推定されたSalmonella Thompson食中毒事例−群馬県


 1996年4月14日に群馬県内のA飲食店で発生したS. Thompsonによる食中毒は,スッポンによる二次汚染と推定された事例であった。

 4月16日,「4月14日A飲食店で法事の会食をした15人のグループのうち3人が4月15日朝から発熱,腹痛,嘔吐,下痢等の食中毒症状を呈した。診察後全員を入院させた。」とB病院から保健所に電話が入った。

 保健所で発症状況を検査したところ,発症者は4月13日,14日の2グループに認められ,他のグループからの発症者は認められなかった。喫食者27名のうち発症者は14名で,発症率52%であった。医療機関受診後入院したのは6名であった。平均潜伏期間は,29.7時間であった。患者の臨床症状は表のとおりで,下痢(93%),腹痛(86%),発熱(93%),頭痛(57%),吐気(43%)であった。

 喫食した13日のメニューは,マーボ豆腐,鶏唐揚,シュウマイ,キツネソバ,刺身(マグロ),漬物,ビール,酒,ジュース,水等であった。また,14日のメニューは,刺身(マグロ),豚角煮,鮎の塩焼き,アジのマリネ,鴨鍋(鴨肉,豆腐,ネギ),ほうれん草の胡麻和え,水,お茶,酒,ビールであった。

 同施設厨房の給水は,上水道(残留塩素0.35ppm)と井戸水(残留塩素検出せず)の2系統が配管され,両方を使用していた。

 4月16日〜17日にかけ保健所で採取した検査材料は,ふきとり5検体,食品7検体,井戸水1検体,患者糞便10検体,従事者糞便6検体で,当所に搬入された。

 食中毒原因菌検索の結果,食品1検体,患者糞便7検体,従事者糞便3検体からS. Thompsonが検出された。なお,患者糞便3検体は,入院治療開始後に採取したため,当所では菌が検出されなかったが,治療前の糞便が検査機関に送られていた。検査機関に送られた入院患者糞便3検体からもサルモネラが検出されたとの連絡があった。S. Thompsonが検出された食品は,4月15日製造保管されていた「とろろ」であった。井戸水からはサルモネラは検出されなかったが,大腸菌群および大腸菌陽性であった。病原血清型大腸菌O18:H7が検出された。井戸は,滅菌装置未設置のため閉鎖された。

 保健所で感染経路や感染源について調査したところA飲食店では,4月11日スッポンを購入し,木製のまな板で調理をしたことが判明した。このため,保健所は,4月19日スッポン養殖のいけすの水を採取し当所に搬入した。検査の結果,いけすの水からS. Thompsonが検出され,その最確数は13/100mlであった。

 今回の食中毒発生の感染経路は,S. Thompsonに汚染されていたスッポンを調理したまな板等の調理器具を介し,二次的に汚染された食品を喫食したためと推定された。

 病原微生物検出情報によると,S. Thompsonは高い頻度で分離されており,今後も引き続きS. Thompsonの動向に注意していく必要がある。



群馬県衛生環境研究所
狩野文子 赤見まり子 斎藤朝子 金澤勝次 大月邦夫
渋川保健所  小屋宥三


表. 患者の臨床症状





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