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Respiratory syncytial virus(RSV)は,毎年秋から春にかけて流行する呼吸器系ウイルスで,乳幼児にとって最も重要なウイルスのひとつであると言われている。また,病院内で広がる重要なウイルスであり1),特に重症の先天性心疾患児(特に肺高血圧を伴う型)等が感染した場合は高い死亡率が報告されており2),十分な注意が必要である。
RSVは,温度に対する抵抗性がきわめて弱く,凍結融解によって急速に不活化しやすいため,ウイルス分離・同定のためには検体採取後すぐに細胞に接種する必要がある。また,細胞変性効果の出現には数日を要する。また,乳児の血中のCF抗体の上昇はきわめて悪く,捕捉できないことが多い。しかしながら,数年前に発売された,EIAを利用した,RSV抗原検出キットは,その迅速性および感度が優れており,その検査方法も簡単である。
神戸市環境保健研究所ウイルス室では1994年末からRSV抗原検出キット(ダイナボット社)を使用して,神戸市立中央市民病院小児科病棟の入院患者の抗原検出を行っている。患者より採取された鼻汁,気道吸引物,咽頭ぬぐい液を凍結せず,即日抗原検出を行った。なお凍結した検体については,検出感度が低下した。また咽頭ぬぐい液よりも鼻汁および気道吸引物からの検出成績が良好だった。また,検査を行うときには温度の管理に気をつけた。特に冬季において,試薬を20℃〜30℃にしてから使用した。これは阪神大震災において暖房が機能しなかった際(室温10℃以下)の感度が低くなったことからの教訓である。
1996年1月からは,院内での感染予防のために,細気管支炎,気管支炎,喘息性気管支炎,肺炎,発熱・咳等の下気道炎症状のある児については,小児科病棟に入院した当日に,鼻汁中のRSVの抗原検出を行い,RSウイルス抗原陽性者と陰性者との病室を分けている。
表1に示すように,下気道炎症状を呈する入院患児全員の鼻汁RSV抗原検査を実施した今年の1月,2月の抗原陽性率は60%を超えている。また,夏期においてもかなりの率で検出されている。図1にはRSV抗原陽性者年齢分布を掲載した。陽性者は1歳前後が大半で,12月齢未満は全体の53%,24月齢未満が79%をしめている。今年の1月1日〜3月27日までのRSV抗原陽性患者の平均入院期間は,7.83日(男児8.21日,女児7.3日)である。また,時期別入院数は1月21日〜2月20日までに集中している。
RSVの分離の1例:肺炎を併発した白質ジストロフィーの疑いの患者(1歳5カ月)の,入院した当日の鼻汁からRSV抗原が検出された。同患者は発症後3日目に死亡したが,剖検後の肺組織液(−30℃2日間保存)の抗原検出を試みたところ,強陽性が出た。さらにこの肺組織液を数日間凍結保存後(−80℃3日),培養細胞4種類(EL,HEp-2,RD-18S,Vero)でウイルス分離を試みた。2代目まで継代を行ったが,FLでのみウイルス分離され,直接蛍光抗体法でRSVと同定された。同患者の死因はRSVによる肺炎による呼吸器不全である。
文献
1)武内可尚,山口由美,渡辺淳・他:RSウイルス感染症の院内感染・臨床とウイルス18:186-191,1990
2)MacDonald NE, Hall CB, et al:Respiratory syncytial viral infection in infants with congenital heart disease. N Engl J Med 307:397-400, 1982
神戸市環境保健研究所ウイルス室 秋吉京子
神戸市中央市民病院小児科 大崎真樹 春田恒和 西尾利一
表1. RSV抗原検出状況
図1. RS抗原陽性者年齢分布(日齢15日〜8歳)
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