The Topic of This Month Vol.19 No.1(No.215)
SRSVは電子顕微鏡像が直径25〜35nmの球形ウイルスで、今のところ増殖する培養細胞は見つかっていない。1972年に胃腸炎集団発生の患者から発見されたNorwalkウイルスが原型で、最近遺伝子のクローニングが行われ、RNAウイルスのCaliciウイルス科として分類されるようになった。
1997年1月から地方衛生研究所と感染症情報センター(IDSC)間の病原体検出報告の収集還元がオンライン化され、これを契機に新たに「ウイルス起因を疑う胃腸炎集団発生事例別情報」の収集が開始された。本特集では1997年11月21日までに報告された198事例をまとめた。
表1に月別発生状況を、推定伝播経路別および食品媒介が疑われた事例の推定媒介食品別に示した。食品媒介(単一暴露)が疑われる胃腸炎集団発生事例の報告は1〜3月に集中し、特に生カキによると推定された事例は1〜2月に多い。人→人(逐次)伝播が疑われた事例は3件であった。食品媒介と推定された事例の39%(59/152)、さらにSRSV陽性事例に限れば52%(37/71)で生カキが媒介食品と推定された。その他に給食、にぎりずしなどが報告された。
198件中101件で患者からウイルスが検出されている。ウイルスの種別はSRSV97件、A群ロタウイルス(表2 No.19)、C群ロタウイルス(表2 No.15)、コクサッキ−ウイルスA9型、コロナウイルス各1件であった。
198件中患者数が報告された事例は64件で、2〜4人15件、5〜9人14件と、小規模事例が多いが、100人以上の大規模事例も3件報告された(図1)。
198件中SRSVが陽性となった事例97件について感染・摂食場所をみると、飲食店が45%を占め、ホテル・旅館14%、学校12%、家庭8%であった(図2)。患者数20人以上の事例は、学校、企業内、老人ホ−ム、飲食店、ホテル・旅館、保育所、身体障害者授産施設、寮、病院などで起こっている(表2)。
食品媒介が疑われた事例は発生期間が2〜3日であるのに対し、人→人伝播が疑われた事例は2〜3週と長い。施設内などではいったん患者が発生すれば、入所者間のみならず介護者などを介する人→人感染によって、大規模発生に発展する危険性があり、食品衛生上の注意とともに、施設内感染としての対応も必要とされる(本月報Vol.18、No.5&6、本号3ページ参照)。また患者の吐物からもSRSVが検出され、糞便だけでなく嘔吐物も感染源となり得るので(本月報Vol.17、No.2参照)、注意が必要である。
SRSV胃腸炎の臨床症状は、1〜2日と持続は短いが激しい嘔吐が特徴であり、遅れて下痢がみられる。SRSV陽性事例97件のうち平均潜伏時間が記載されていた12件についてみると、34〜39時間8件、42〜47時間3件、25時間1件であった。
最近、RT-PCR(PCR)がSRSVの検出に応用可能となり、電子顕微鏡(EM)と併用されるようになってきた(本月報Vol.17、No.2参照)。SRSV陽性事例97件中57件はEMとPCRの両方法で、22件はPCR、18件はEMによってSRSVが検出された。PCR法は感度においてはEMの検出限界を上回ると考えられるが、現在でも依然SRSV検出の標準法はEMである(本号6ページ参照)。また、複数の株由来のプライマーを用いてPCRを行うことによって検出率が高くなることが報告されている(本号5ページ参照)。
厚生省食品保健課が都道府県に依頼した調査によると、1997年1〜4月に全国33都道府県市で149件の非細菌性食中毒事例があった。IDSCへの報告と重複する事例が含まれ、報告の概要は同様である。原因と疑われる食品のPCR検査が行われた事例38件中1件で生カキ31検体中3検体がSRSV陽性であった。
これまでの食品衛生法ではその報告様式(施行規則)においてウイルスは食中毒の病因物質として明示されていなかったが、食品衛生調査会による審議を経て1997年6月1日施行規則が一部改正され、SRSVとその他のウイルスが食中毒病因物質として明示された。さらに通知中にある「細菌」という用語は、ウイルスの概念を含む「微生物」に改められた(厚生省生活衛生局長 衛食第 155号、本号6ページ参照)。これを受けて1997年11月、国立公衆衛生院において、地研職員等を対象としたSRSV検査法の技術研修会が開催された(本号6ページ参照)。