The Topic of This Month Vol.20 No.1(No.227)
北海道における多包性エキノコックス症患者の発生動向および動物の感染状況等については、北海道保健福祉部に事務局がおかれている「北海道エキノコックス症対策協議会」(会長:北海道大学医学部・皆川知紀)が情報を収集しており、以下に掲載する資料は同協議会から提供されたものである。
わが国における最初の多包性エキノコックス症患者の多発は礼文島において報告された(地図)。1924〜1926年にかけて、移入されたキツネが感染源になったと推測されている。現在は礼文島における流行は既に終息しているが、同島でみられた流行状況の詳細は本号6ページを参照されたい。これとは全く別個のルートで本寄生虫は道東にも侵入したもようで、1965年に礼文島とは遠く離れた根室市で本症患者が発見された。その後も道内における患者の発生は続き、最近では毎年10名前後の新規患者が報告されている(図1)。礼文島での患者の発生以来、1997年までに総計 373症例が確認されている。道東の根釧地区に当初集中していた患者発生が、1980年前後から他の地域でもみられるようになった。流行地域が北海道東部から急速に西部および北部に拡大した(表1)。本寄生虫の終宿主であるキツネおよび中間宿主である野ネズミの感染状況を図2に示す。キツネの捕獲地にばらつきがあるため、必ずしも北海道全土の現状を表しているとはいえないものの、近年感染率が上昇している。野ネズミの感染率をみても同様である。当初から全道のキツネを検査対象としていなかったため、正確なことは不明であるが、北海道東部に限局していた本寄生虫の生活環が1980年前後より急速に全道に拡がったものと推測される。現在では北海道のほぼ全域で感染動物がみつかっている。キツネの他にはイヌも終宿主になりうるが、今のところ感染が確認された頭数はきわめて少ない(本号3ページおよび1991年までの詳細は本月報Vol.14、No.5、p.100参照)。
1965年の根室市における患者発生以来、道内では本症対策協議会実施要項に基づき、1.衛生教育、2.検診、3.媒介動物対策、4.上水道対策、5.学術研究の5項目を柱に本症対策を実施してきた。特に検診は本症の早期診断・早期治療を目的としたもので、検診対象地域や検診方法に変遷はみられるものの、現在は全道の希望者を対象とし2段階の検診事業を行っている。各市町村が費用を負担し、酵素抗体法による血清抗体検査を一次スクリーニングとして実施している(本号4ページ参照)。一次スクリーニングにおいて陽性、疑陽性と判定された人には道が費用を負担し、より精度の高いウエスタンブロット法による血清抗体検査および腹部超音波検査を取り入れた専門医による診療を二次スクリーニングとして行っている。最終的に北海道エキノコックス症対策協議会内に設けられた本症診断専門委員会において患者および要観察者を確定している(表2)。この検診システムは北海道独自のもので成果を挙げており、世界的にも注目されている。一般病院で発見される患者の数も多くなっているが、これらの患者はすべて一次検診を受けていない人達である。
媒介動物対策として、主要な感染源であるキツネを人家周辺に近づけないためには、餌となる生ゴミ、畜産廃棄物、水産廃棄物等の適正な保管・処理が不可欠である。そのための総合的なゴミ対策を実施すべく行政レベルでの検討が開始された。野生動物に餌を与える等の観光客の行動も当然問題とされねばならない。さらに本年から同協議会内に本症対策の立場から、感染源となっているキツネといかに共生していくかを検討する媒介動物専門委員会が発足した。
青森県以南において感染したと推定される症例が若干報告されている。そのため本州においても1997年から厚生省研究班による媒介動物の感染実態調査が開始された。今のところ青森県以南では感染動物は発見されていない。
1999年4月より「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の施行に伴い、「エキノコックス症」は医師の届出が義務づけられる4類感染症となる。