The Topic of This Month Vol.20 No.7(No.233)
食中毒統計:1996年の食中毒発生事件総数は1,217件、患者総数は46,327人で、病因物質の判明したものは1,047件(86%)、41,300人(89%)であった。腸炎ビブリオは事件数ではサルモネラに次いで2番目に多く、患者数ではサルモネラ、病原大腸菌に次ぎ3番目であった(この年に病原大腸菌の患者数が激増したのは腸管出血性大腸菌O157:H7大流行の影響である)(表1)。1997年の事件総数は1,960件、患者総数は39,989人で、病因物質の判明したものは1,723件(88%)、29,625人(74%)であった。腸炎ビブリオが事件数ではサルモネラをやや上回った(図1)が、患者数では依然としてサルモネラがトップであった(図2)。1998年には事件総数3,059件、患者数44,645人で、病因物質の判明したものは2,953件(97%)、43,536人(93%)であった。腸炎ビブリオは患者数が前年の2倍となり、サルモネラを超えた(図2)。
地研・保健所集計:地研・保健所でヒトから検出された腸炎ビブリオの年間報告数は、1997年から増加傾向にある(図3)。1996〜1998年の月別の検出例数をみると、いずれの年も8月にピークを示し、7〜9月に集中する傾向は従来と同様であったが、1998年には10月にも多数が報告された(図4)。
また、1996〜1998年の3年間に「流行・集団発生情報(患者数2人以上)」として報告された腸炎ビブリオによる食中毒集団発生を発生月別にみると、いずれの年も8月にピークを持つ夏季多発の傾向があり、冬季にはほとんどその発生がみられていない。この傾向も従来と同様である(図4)。
1996〜1998年に報告された腸炎ビブリオによる集団食中毒を規模別に示した(図5)。この3年間の事件数の総数は496件(1996年102件、1997年160件、1998年234件)であった。それらのうち、患者数が2〜49人の事件は約94%(2〜9人220件、10〜49人244件)で、50〜499人の事件は6%(30件)とかなり少なく、また500人以上の超大型の事件は2件のみであった。わが国の近年の腸炎ビブリオ食中毒は比較的小規模な事件が多発する傾向にある。
なお、超大型事件の1つは、1996年8月、新潟県のカニ販売店で販売されたゆでベニズワイガニによる患者691人をみた事件(原因菌の血清型はO3:K6)であり、他は1998年7月、滋賀県の仕出し弁当による患者1,167人が発生した事件(分離菌株の血清型はO1:K56のほか6菌型を検出;本号8ページ参照)である。
1996年以降、集団食中毒で検出さた腸炎ビブリオの血清型は、それ以前に優勢を占めていたO4:K8からO3:K6に変換した(図6)。このO3:K6型菌による食中毒事件の増加が、1997〜1998年の腸炎ビブリオ食中毒再増加の原因と思われる。しかし今回の腸炎ビブリオの血清型の変換が一体何によるものなのかは不明である。
インドやバングラデシュでも1996年以来、血清型O3:K6による食中毒が急増しており、またタイや台湾など東南アジアでも同菌型による事件の増加が注目されている。さらに米国でも1997年7〜8月(患者数 209人)および1998年7〜9月(患者数23人)に生カキを原因とするO3:K6 型菌による流行が報告されており(CDC、MMWR、47、457-462、1998;48、48-51、1999、本月報Vol.20、No.3外国情報参照)、今後O3:K6型菌による世界的な腸炎ビブリオ食中毒の発生動向が注目される。
最近分離された国内外のO3:K6 型菌株のパルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)パターンは過去の菌株とは異なり、相互の類似性が極めて高く、単一のクローンの可能性が示唆されている(本号3ページ参照)。しかしながら、これらの国内外のO3:K6型菌株の相互の因果関係は不明である。
また1998年、血清型O4:K68というこれまでにない新しい血清型による食中毒6事例が報告された(図6;本号9ページ参照)。最近、この新血清型菌はタイやインドでも分離されており、今後O4:K68型菌による食中毒の動向にも注意が必要であろう。