The Topic of This Month Vol.20 No.12(No.238)


インフルエンザ 1998/99シーズン

1998/99シーズンのインフルエンザ流行状況について、厚生省感染症発生動向調査データを中心としてまとめた。

患者発生状況図1-aに1996年〜1999年の3シーズンのインフルエンザ様疾患患者週別発生状況を示した。この中で1998/99シーズンの状況を見ると、12月よりインフルエンザ様疾患の流行が始まり、1999年に入ってから急激に増加、1999年の第3〜4週でピークとなった後に急速に減少傾向に転じた。第6〜9週に一時横這いとなり、第10週より今度はゆっくりとしたペースで第15週にかけて減少していった。

1999年第1四半期(第1〜13週)にインフルエンザ様疾患として報告された患者の年齢について、1998年同期の報告数と比較した(図2)。1〜9歳ではどの年齢もほぼ同数、0歳はこれらの年齢層に比して1/3 〜1/4 程度の報告数で、これは1998年と同様の傾向であったが、15歳以上の年長者、特に30歳以上での報告数の増加が目立った。ただし1999年3月まで実施されていた発生動向調査の定点の多くは小児科診療機関であるため15歳以上の患者の報告数は実際より少なく、これらの年齢層での実態は本調査からは不明である。

ウイルス分離状況図1-bに全国の地方衛生研究所(地研)等で分離されたインフルエンザウイルスについて、最近3シーズンの週別報告数の推移を示した。これから分かるように、A(H3N2)型が最近3シーズン続いて流行した。1998/99シーズンは、シーズン前半はA(H3N2)型によるもの、第6週以降はA(H3N2)型から次第にB型に置き換わっていった。1998/99シーズンに分離されたインフルエンザウイルスの総数は8,526例、その内訳はA(H3N2)型4,690、B型3,826、A(H1N1)型10であった。図3にこれらインフルエンザウイルス検出例のうち年齢が明らかなものについてまとめた。1997/98シーズンは、1歳および9歳を二つのピークとしてA(H3N2) 型が分離された。1998/99シーズンの各年齢群におけるインフルエンザウイルス分離数は9歳以外では1997/98シーズンを上回っていた。このうちA(H3N2) 型は、0〜4歳ことに1歳では1997/98シーズンを上回って分離されていたが、5〜9歳および10〜14歳にかけては1997/98シーズンを下回っていた。一方、B型は7歳をピークに分離され、中でも5歳以上、10〜14歳では、B型の分離数はA(H3N2)型を上回った。

なお1998/99シーズンのA(H3N2) 型分離株のほとんどは同シーズンワクチン株A/シドニー/5/97(H3N2)類似株であったが、HI抗原性がこれより23価以上変異したA/福島/99/98(H3N2)類似株が少数分離されていた。シーズン後半の小流行の中心となったB型は、B/山形/16/88系統の株と、B/ビクトリア/2/87系統の株が共存していた(本号3ページ参照)。

抗体保有状況:伝染病流行予測調査による、1998年秋(1998/99シーズン前)に健常人から採取された血清のインフルエンザHI抗体保有状況(HI価1:10以上)を図4に示した(本月報Vol.19、No.12 、1998参照)。A/シドニー(H3N2)に対する抗体保有率は、5〜9、10〜14歳では高く、その前後の年齢では低いという結果であった。A/シドニー(H3N2)類似株が流行の主流であった1998/99シーズンのA(H3N2)型検出例の年齢分布は1歳にピークがあり、5歳から学童年齢にかけての検出例は減少しており(図3)、シーズン前の抗体保有状況を反映しているといえる。またB型についても、流行前のB/北京に対する抗体保有率が14歳以下の低年齢層で低かったことを反映して、学童年齢を中心にウイルスが分離されている。1999/2000シーズン前の抗体保有状況の速報については、本号6ページおよび感染症情報センターのホームページ(http://idsc.nih.go.jp/yosoku99/FlusokuJ/Flusoku-1.html)に掲載している。

超過死亡:1998/99シーズンのインフルエンザ・肺炎による超過死亡は、1997/98シーズンの1.8倍であった。インフルエンザ・肺炎による死亡の90%以上が65歳以上の高齢者で、近年の老齢人口の増加により高齢者の超過死亡が増加傾向にある(本号5ページ参照)。

脳炎・脳症:小児におけるインフルエンザの重篤な合併症として脳炎・脳症などの中枢神経系合併症があり、1997/98シーズンにはこれらの重症例の報告が増加していた(本月報Vol.19、No.12 、1998参照)。図5-bは、過去12シーズンに全国約500の病院定点から報告された脳・脊髄炎患者(急性脳炎および脳症、ライ症候群、脊髄炎の報告を含む)報告数を示したものであり、1998/99シーズンも1997/98シーズンと同様に、インフルエンザ様疾患の急激な増加と脳・脊髄炎の増加の一致が明らかである(図5-a)。インフルエンザに合併する脳症としてライ症候群の存在がよく知られているが、小児に対する解熱剤としてサリチル酸製剤の使用を1980年代から控えるようになってから以降、欧米でもわが国でもライ症候群の発生は急速に減少した。図5-b太線でライ症候群と報告された患者数について示した。1987年以降毎冬12〜3月におけるライ症候群の発生報告数は、1987/88シーズンの10例を除き、いずれも1桁台であり、近年のインフルエンザ流行期間中の脳炎・脳症の増加は、ライ症候群に該当しない脳炎・脳症によるものと判断される。

1998/99シーズン中に、地研において咽頭や髄液中からインフルエンザウイルスが分離あるいはRT-PCRによりウイルスゲノムが検出されたと報告された急性脳炎・脳症は91例、このうちA(H3N2) 型74例、B型17例であり、1997/98シーズンの75例を上回る過去最高の報告数であった。年齢分布は1997/98シーズン同様1〜3歳までの幼児に多くみられた。また報告された時点で死亡が明らかであったものはA(H3N2) 型7名、B型2名であった。

厚生省は、平成11年11月17日保健医療局結核感染症課長名で、都道府県政令市特別区衛生主管部(局)長宛に「今冬のインフルエンザ総合対策について」の通知を出し、インフルエンザ予防対策の徹底を求めている(本号8ページ参照)。

今シーズン(1999/2000)のウイルス分離速報は、感染症情報センターホームページ(http://idsc.nih.go.jp/prompt/infu-j.html)に掲載している。

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