The Topic of This Month Vol.22 No.9(No.259)


つつが虫病 1996〜2000
(Vol.22 p 211-212)

つつが虫病(恙虫病)は、 リケッチアOrientia tsutsugamushi を保有する一部の有毒ツツガムシ幼虫に「吸着」された人に起こる感染症で、 東南アジアを中心にインド亜大陸、 オーストラリアでも発生している。わが国では1800年代初めには既に秋田県、 山形県、 新潟県など東北・北陸地方で夏季に河川敷で発生する風土病として知られていた。この古典型つつが虫病は主にアカツツガムシ(Leptotrombidium akamushi )によって媒介されることが知られていたが、 戦後、 フトゲツツガムシ(L. pallidum )およびタテツツガムシ(L. scutellare )によって媒介される新型つつが虫病の存在が明らかとなり、 北海道、 沖縄など一部の地域を除く全国で発生が報告されるようになった。

フトゲツツガムシは北海道南半部から鹿児島県まで分布し、 秋に孵化した幼虫は初冬まで吸着源を求めて活動するが、吸着できなかった幼虫は積雪期に休眠し、翌春に再び活動する。タテツツガムシは南西日本を中心に東北中部まで分布し、 秋に孵化して幼虫は冬まで活動する。O. tsutsugamushi の血清型はいくつかの亜型が知られており、 アカツツガムシはKato型、 フトゲツツガムシはKarp型またはGilliam型、 タテツツガムシはKawasaki型またはKuroki型を保有する。

伝染病予防法に基づくつつが虫病の届け出は1950年に開始され、 その後1999年4月施行の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」に基づく感染症発生動向調査でも全数把握の4類感染症に定められた。患者発生状況を見ると(図1表1)、 1950年の患者届け出制度開始当時は大部分が古典型で患者数は年間100例程度であったが、 その後急速に減少した。しかし、 1980年頃より新型つつが虫病患者が急増した。1991年以降は減少傾向にあったが(本月報Vol.18、 No.9参照)、 1997年から再び増加に転じ、 2000年は794例を数えている。2000年の患者は37都県から報告された(図2)。また、 人口動態統計による1996〜2000年の5年間の死者は10例(秋田4、 青森3、 福島、 京都、 鹿児島各1)報告されている。

感染症法施行後の1999年第14週〜2001年30週の感染症発生動向調査では、 いずれの年も21〜23週(5〜6月)と45〜50週(11〜12月)に患者発生のピークがある(図3)。地域別にみると、 比較的寒冷で冬に積雪がある東北・北陸地方などでは秋〜冬と春の両方に発生がみられ、 九州から関東地方までの温暖な地方では秋〜冬に発生が多く、 その地域に分布するツツガムシの幼虫活動時期と関係していた(本号3ページ4ページ、 5ページ参照)。1999年4月〜2000年12月の患者の性別は男722例、 女628例と男性がやや多く、 年齢は65〜74歳がピーク(図4)で、 31%を占めた。

一方、 国立感染症研究所および地方衛生研究所で構成している衛生微生物技術協議会検査情報委員会つつが虫病小委員会では、 1989年から詳細な患者調査票を収集している。以下に1998年の集計から得られた知見をまとめる(感染症誌、 75:353-364, 2001参照)。つつが虫病が疑われた583例中、 確認患者は416例であった。推定感染場所は山地・山間部が50%と最も多く、 かつて古典型つつが虫病の感染がよく見られた河川敷での感染は3.3%と激減している。感染時の作業の種類は農作業が32%、 森林作業14%、 山菜・山芋採り11%、 レジャー6.5%、 工事3.5%であった。

九州地方における流行型を患者212例の血清抗体価から推定した結果、 Kawasaki型、 Kuroki型に感染した患者が大部分を占めた(図5)。また、 Kawasaki株またはKuroki株には反応するが、 従来用いられてきた標準3株(Kato、 Karp、 Gilliam株)には反応しない例があった。Kawasaki型、 Kuroki型を保有するツツガムシが分布している地方ではこれらの株を抗原に使用した方がよいことが明らかとなった。なお、 急性期血液で血清抗体が検出できない場合には、 血餅からのPCRによるO. tsutsugamushi DNA検出率が高く、 血清診断とPCRの併用が勧められる(本月報Vol.18、 No.1および本号3ページ参照)。

臨床所見としてつつが虫病の主要3徴候である刺し口、 発熱、 発疹は、 それぞれ87%、 98%、 92%と高率であった。また、 汎血管内凝固症候群(DIC)は21例に認められた。刺し口の場所は、 胸部・腹部・背部・臀部および陰部など躯幹部が35%、 下肢が23%であった。初診時の刺し口の形状は痂皮状が60%であった。リンパ節腫脹は約半数の患者に認められ、 刺し口の近傍に腫脹がみられる傾向があった。血液生化学検査所見では、 CRP、 GOT、 GPT、 LDHの上昇が、 それぞれ96%、 85%、 78%、 91%にみられた。

つつが虫病には、 多くの細菌性熱性疾患に第一選択剤として用いられるペニシリン系、 β-ラクタム系薬剤は無効であるが、 テトラサイクリン系薬剤が有効で耐性株もないため、 臨床所見でつつが虫病を疑った段階でのテトラサイクリン系薬剤投与による早期治療が重症化を防ぐために重要である。一方、 地域でつつが虫病患者が発生したという情報は、 疑わしい患者の早期受診を促し、 医師の臨床診断にも大きな助けとなる。また、 患者の推定感染場所に住民や行楽客などが無防備に立ち入らないよう注意を呼びかけることも可能となる。このため、 感染症発生動向調査において、 医師はつつが虫病患者の病原体診断または血清診断を行って速やかに最寄りの保健所へ届け出ること、 保健所および地方・中央感染症情報センターは医療機関および一般への迅速な情報提供を行うことが、 つつが虫病対策の基本として要求される。

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ツツガムシはダニの一種で、 幼虫(約0.2mm)は成虫になるため一度だけ温血動物に1〜2日間「吸着」する。「吸着」とは虫が口器を皮膚に突き刺して、 ストロー状の吸収管を通して体液を吸うこと。口器は短く毛細血管に達しないため、 吸血はできない。

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