腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli : EHEC、 あるいはVero毒素産生性大腸菌:VTEC、 志賀毒素産生性大腸菌Shiga toxin-producing E. coli : STECとも呼ばれている)による感染症は、 1999年4月から施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」にもとづく感染症発生動向調査において 3類感染症とされ、 全数把握の対象疾患となっている。
患者発生動向:表1に旧厚生省伝染病統計および感染症発生動向調査によるEHEC感染症患者および無症状病原体保有者(以下EHEC感染者)報告数を示す。2001年は4,319人と、 2000年の3,649人を大きく上回った。週別報告数は春季に広域集団発生による増加がみられ(表3)、 夏季には第31週をピークに大きく増加したが、 第41週以降急減した(図1)。2001年の都道府県別発生状況は人口10万人当たり1.04〜12.34人と地域差がみられ(図2)、 島根、 佐賀、 富山の上位3県は2000年に引き続いて多く、 4〜6位の福井、 千葉、 長崎は2000年に比べ大きく増加した。図3に2001年のEHEC感染者の年齢分布を示す。0〜4歳がもっとも多く、 5〜9歳がこれに次ぐ。0〜14歳は男の方が多く、 20歳以上は女の方が多い。有症者の比率は男女とも若年層と高齢者で高く(19歳以下で78%、 65歳以上で70%)、 30代および40代では50%以下であった。35〜39歳では69%が無症状者であった。
2001年には患者発生ピークの第31週の4人、 第33週の1人は報告時点で既に死亡しており、 うち4人は高齢者であった(73、 81、 89、 97歳)。1人は5歳児でO157に感染し溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こし死亡している。この他に有症者2,862人中47人はHUS・腎機能障害の症状が記載されており、 うち0〜4歳24人、 5〜9歳12人、 10歳以上11人であった。
EHEC検出報告:地方衛生研究所(地研)から送られたEHEC検出報告数は、 1991〜1995年までは毎年100前後であったが(本月報Vol.17、 No.1参照)、 1996年に3,022と激増した後、 最近は年間約2,000前後で推移している(http://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-lj.html参照)。EHEC感染者報告数(表1)と開きがあるが、 これは、 現在のシステムでは地研以外で検出された菌株についての情報の中に地研に届かないものがあることによる。血清型をみると、 1991〜1995年ではO157:H7が83%(436/525)を占めていたが、 その後O26、 O111などO157以外の血清型の増加が続き、 2001年にはO157:H7が65%であった(表2、 詳細はhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/23/268/graph/t2682j.gif参照)。さらにO157:H7の毒素型をみると、 1996年には87%がVT1とVT2の両毒素を保有する菌(VT1&2)であったが、 その後VT2のみを保有する菌(VT2)が増加し、 2000年には43%を占めた。しかし、 2001年はVT1&2 が大きく増加した。一方、 O26とO111ではVT1のみを保有する菌(VT1)が多い。2001年にHUSが報告されたEHEC検出例29人(0〜1歳3人、 2〜5歳14人、 6〜15歳6人、 16〜39歳1人、 40歳以上5人)中、 O157が26人(うちVT2が13人、 VT1&2が13人)、 O111(VT1&2)が2人、 O165(VT2)が1人から分離されている。
集団発生:1996年には小学校での集団事例が多発したものの(本月報Vol.19、 No.6参照)、 1997年以降は小学校での大規模集団発生の報告はない。しかし、 依然としてその他の施設内での集団発生がみられ、 2001年にも保育所7件に加え、 福祉・養護施設、 病院や寮における集団発生が報告されており(表3)、 二次感染有りと報告された事例が多い。二次感染により発生が長期化・拡大するのを防ぐためには、 有症者・無症状病原体保有者を早期に漏れなく発見し(本月報Vol.22、 No.11参照)、 菌陽性者に対し二次感染予防の指導を徹底すること、 菌陰性化および再排菌の無いことを確認するための追加検査が重要である(本月報Vol.23、 No.1参照)。
牛タタキ・ローストビーフ(表3 No.2、 本月報Vol.22、 No.6参照)、 ビーフ角切りステーキ(本月報(1)Vol.22、 No.6、 (2)Vol.22、 No.6参照)や、 和風キムチ(表3 No.15、 本月報Vol.22、 No.11および本号3ページ参照)を原因食品とする事例は、 多地域に食品が流通していたために広域で発生した"diffuse outbreak"で、 それぞれの事例内で感染者および原因食品から分離された株のパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による遺伝子型は一致していた(本号3ページ参照)。このような広域におよぶEHEC感染症が発生した場合には、 各機関の協力のもとにパルスネット(本月報Vol.22、 No.6参照)等の利用による迅速な情報交換を行い、 被害の拡大を未然に防止する対応が求められる。
本年も4月に佐賀県の保育所においてO121:H19による集団発生が報告されており(本号7ページ参照)、 EHEC感染症が増加する夏場に向けて、 なお一層の注意喚起が必要である。