The Topic of This Month Vol.24 No.2(No.276)

レジオネラ症 1999.4〜2002.12

(Vol.24 p 27-28)

レジオネラ症はレジオネラ属菌(Legionella spp.)による感染症で、 その病型には肺炎型と感冒様のポンティアック熱型とがある。レジオネラ肺炎に特有の症状はないため、 症状のみで他の肺炎と鑑別することは困難である。四肢の脱力や、 意識障害などの神経・筋症状を伴う例や、 急速に全身症状が悪化する例がある点に注意が必要である。レジオネラ属菌は水中や湿った土壌中など環境中に存在する細菌で、 15〜43℃で繁殖し、 培養環境下では36℃前後で最もよく繁殖する。また、 循環式浴槽水、 空調施設の冷却塔水、 給湯器の水などの人工温水中に生息する原虫類(アメーバ)の細胞内で大量に増殖する。これらの水から発生したエアロゾルの吸入によってレジオネラ属菌の経気道感染が起こり、 人体内では貪食細胞内で増殖することが知られている。高齢者や新生児、 および免疫力の低下をきたす疾患を有する者が本症のリスクグループである。

患者発生状況:レジオネラ症は1999年4月に施行された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」において全臨床医に届け出義務のある4類感染症となった。その結果、 感染症法施行から2002年12月末までに465例のレジオネラ症患者が診断された(2003年1月15日現在報告数)(表1)。届け出の時点で死亡が報告されたのは34例(7.3%)であった。厚生省(当時)レジオネラ研究班(代表・斎藤 厚、 分担・二木芳人:1997〜1999年の53例、 分担・山口惠三:1992〜1999年の87例)によると、 レジオネラ肺炎の致死率は約15%であった。ポンティアック熱は集団発生等で発見されるが、 散発例での診断は困難で、 届け出患者のほとんどは肺炎型と思われる。

感染症法施行後の患者発生状況(初診年月日を月別に集計)については、 2000年と2002年の循環式公衆浴場における集団感染事例を反映し突出した部分を除くと、 季節性がない(図1)。かつて、 レジオネラ症は冷却塔の稼動に伴い8月に患者発生が増加するとみられていたが、 それとは明らかに異なった傾向であった。都道府県別報告数をみると(図2)、 特定の地域に集中する傾向はみられない。件数の多い都道府県には、 集団発生のあった都道府県が含まれている。

患者の平均年齢は60.8歳で、 0、 1歳各5例、 3、 13、 16歳各1例と小児では少なく、 成人では60代をピークに20〜95歳に広く分布していた(図3)。性別は男性患者が 386例と全体の83%を占めており、 米国(1980-1998; Benin AL et al., CID 35:1039-1046, 2002)やヨーロッパ(1999; WHO WER Vol.75, No.43:347-352, 2000)の65%より多かった。報告に記載された患者の症状は、 発熱と呼吸困難を伴う肺炎が主であった。

診断法:確定診断に用いた検査法が記載されていた448例中、 尿中抗原検出が230例(51%)と半数を占め、 次いで血清抗体価の測定132例(29%)、 培養88例(20%)であった(表1)。抗原検出法による診断例の占める割合が、 1999年25%、 2000年43%、 2001年56%、 2002年65%と大きく増加している。血清抗体価測定のみの場合は抗原検出、 培養に比べ診断までに日数を要していた。PCRは検出感度の高い方法であるが28例(6.3%)と少なく、 レジオネラ症の診断法としてはまだ一般的となっていない(本号3ページ参照)。

検出病原体:上記の培養陽性患者88例中52例に起因菌の記載があり、 内訳はLegionella pneumophila が42(うち、 血清群が判明しているものは血清群1が17、 血清群2〜6が各1〜3)で、 その他のレジオネラ属菌はL. micdadei が2、 L. gormanii L. longbeachae が各1で、 種別不明が6であった。後述の集団感染事例はすべてL. pneumophila 血清群1によるものであった。

一方、 全国17の地方衛生研究所から国立感染症研究所感染症情報センターに報告された環境からのレジオネラ属菌の検出情報によると、 冷却塔水からはL. pneumophila 血清群1が優勢であるものの、 温泉・循環風呂などからは、 1以外の血清群が多数検出されている(表2)。

集団感染事例:前回のレジオネラ症の特集(本月報Vol.21、 No.9参照)以降の注目された事例を紹介する。2002年7月に宮崎県の循環式温泉入浴施設の浴槽水を感染源として発生した集団感染は、 2002年10月27日現在、 患者295例(確定34例、 死者7例)という本邦で最大規模の事例となった(本号3ページ参照)。さらに、 2002年8月に鹿児島県の温泉施設が感染源と推定される集団感染(確定9例、 死者1例)があった(本号5ページ参照)。ともに施設オープンまもない循環式浴槽による事例で、 浴槽水のレジオネラ属菌の数は、 それぞれ100ml当たり1.5×106および1.3×105cfuに達していた。2000年の静岡県、 茨城県の循環式浴槽の事例(本月報Vol.21、 No.9参照)と共通点が多く、 教訓が十分に活かされていなかったといえる。一方、 2002年7〜8月に3例の患者が確認された山形の2事例では、 温泉水からそれほど多数のL. pneumophila が検出されなかったにもかかわらず、 肺炎患者が出た(本号6ページ参照)。その他、 2002年9月に愛媛県の青少年宿泊施設の浴場が感染源と考えられる複数の中学生の発熱が観察され、 少なくとも1例は抗体価の上昇が認められた。2002年6〜7月に、 福島県の乳児院で1歳の幼児3例の感染が起きているが、 感染源は不明であった。

対策:レジオネラ属菌が土埃などとともに冷却塔、 循環式浴槽、 給湯設備、 加湿器などの人工環境水系へ混入することは避けられない。また、 全国の温泉・公衆浴場、 その他の温水環境の調査では64%からレジオネラ属菌の宿主となるアメーバが検出されている(本号8ページ参照)。適当な温度に保たれた水環境ではレジオネラ属菌は宿主となるアメーバとの共存により急速に増殖する。したがって、 本症の予防には、 人工環境水設備の管理マニュアルに沿った適切な換水や清掃、 消毒が必須である(本号7ページ参照)。上記の集団感染事例から、 特に循環式浴槽の規制が強化され、 気泡発生装置、 ジェット噴射装置、 打たせ湯、 シャワーなどに循環浴槽水を使用してはならないことが指針にもりこまれた(本号9ページ参照)。この指針で示された浴槽水の水質基準ではレジオネラ属菌は冷却遠心濃縮法または濾過濃縮法で検出されないこと(100ml当たり10cfu未満)となっている。溺水事故の場合にはこの基準値未満の浴槽水でも肺炎発症例が報告されている。さらに、 宮崎の事例などのように、 県外の患者が含まれる場合もあり、 患者が広域にわたる可能性を考慮して、 他の地方自治体や医療機関、 あるいは住民へ広く情報提供を行うことが必要である。

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