2005年5月〜6月に、沖縄県中部保健所管内でレプトスピラ症2例が発生したのでその概要を報告する。
症例1:患者は71歳・男性で、基礎疾患として糖尿病、アルコール性肝障害があった。5月4日頃から倦怠感、食欲低下の症状を呈し、5月11日には黄疸がみられ、臥床がちとなったことから5月14日に医療機関を受診した。臨床症状は、低体温(34.5℃)、顕著な黄疸、意識レベル低下、血圧低下、腎不全を呈し、血液所見は、血小板減少、顕著なビリルビン値の上昇が認められ、レプトスピラ症が疑われた。患者は、重症のため入院となった。血漿交換および抗菌薬(ABPC、CLDM、AZT)投与等の治療により徐々に回復し、5月27日に退院した。患者によると、自宅にはネズミが頻繁に出没するとのことであった。
症例2:患者は83歳・女性で、6月26日に発病し、6月28日に医療機関を受診した。臨床症状は、発熱(38.9℃)、悪寒を呈し、血液所見は、白血球上昇、血小板減少が認められた。頭痛、筋肉痛、黄疸は認められなかったが、潜伏期間内(3〜14日)にネズミによる咬傷歴があったことからレプトスピラ症、鼠咬熱および蜂窩織炎が疑われた。6月29日に抗菌薬(CLDM、CTX)投与を開始した後、Jarisch-Herxheimer反応と思われる血圧低下、悪寒戦慄、腎機能低下を認めたが、翌日より解熱、回復し、7月7日に退院した。患者によると、6月中旬頃自宅内に設置したネズミ獲りで捕獲したネズミを処分しようとした際、誤ってネズミに咬まれたとのことであった。また、自宅の周囲ではネズミをよく見かけ、そこで草取りなどをしていた。
病原体および抗体の検出:レプトスピラの分離のため、症例1および2の患者血液をコルトフ培地に接種し培養を行った。培養液中にレプトスピラ様の菌体が暗視野顕微鏡下で確認されたため、これらの分離株について12種類の抗血清を用い顕微鏡凝集試験(MAT)により血清型の推定を行った。その結果、症例1は血清型Javanica、症例2は血清型Pyrogenesと推定された(表1)。抗体検査は、患者血清についてレプトスピラに対する凝集抗体価をMATにより測定し、単一血清では抗体価80倍以上、ペア血清は4倍以上の抗体価上昇を抗体陽性とした。その結果、症例1および2ともに抗体陽性で、血清型は分離株と一致した(表2)。また、分離した2株は鞭毛遺伝子flaB の部分塩基配列決定により、症例1がLeptospira borgpetersenii 、症例2がLeptospira interrogans に分類された。
考察:齧歯類は、レプトスピラの主要な保菌動物として知られており、ヒトへの感染は、レプトスピラを含んだ齧歯類の尿で汚染された水や土壌に、ヒトが経皮的、経口的に触れることで起こる。最近の県内における感染事例としては、川や畑など野外での感染例が多いことが報告されている1-3)。問診によると症例1は、潜伏期間内の農作業や環境水等による感染機会はなかったが、自宅ではネズミが出没していたことから、自宅での感染も考えられた。症例2は、ネズミによる咬傷が潜伏期間内であったことから、咬傷部位からの感染が考えられた。また、自宅の周囲ではネズミがよく見かけられ、日頃からそこで草取り作業をしていることから、これが感染機会となった可能性も考えられた。症例1および2の分離株の血清型は、これまでネズミから分離報告4, 5) されている血清型とも一致していたことから、ネズミが感染源となった可能性が示唆された。今回のように野外ではなく、自宅での感染が考えられる事例は稀であるが、自宅にネズミが出没した場合や、捕獲したネズミを取り扱う際には十分注意する必要がある。
文 献
1) IASR 21: 165-166, 2000
2) IASR 24: 326-327, 2003
3) IASR 24: 327, 2003
4)日本獣医師会雑誌 57: 321-325, 2004
5)化学療法の領域 17: 2154-2159, 2001
沖縄県衛生環境研究所
平良勝也 仁平 稔 糸数清正 久高 潤 大野 惇
沖縄県中部保健所 野村直哉
沖縄県立中部病院
喜舎場朝和 遠藤和郎 吉田幸生 森 博威 小泉賢洋 宮里 均 上原 元 若竹春明
中野伸亮 湧田博子