平成17/18年(2005/06シーズン)感染症発生動向調査からのインフルエンザ脳症報告例について

(Vol.27 p 307-308:2006年11月号)

インフルエンザ脳症は主に5歳以下の乳幼児に発生し、インフルエンザ発病後の急速な病状の進行と予後の悪さを特徴とする疾患である。1990年代前半より本邦ではインフルエンザの流行期間中に脳炎・脳症の発生報告がみられるようになり、1998年、1999年にはインフルエンザの急激な増加と急性脳炎・脳症の増加の一致がサーベイランス上からも明瞭に見られるようになった(IASR 19: 272-273, 1998 & 20: 289-290, 1999)。その後「インフルエンザの臨床経過中に発生する脳炎・脳症の疫学および病態に関する研究班」(班長:森島恒雄岡山大学大学院医歯学総合研究科小児科学教授)が発足し、同研究班が中心となってインフルエンザ脳症発生のメカニズムの解明、危険因子の推定、治療法の開発等について、現在に至るまで様々な研究が行われてきており、2005年11月には「インフルエンザ脳症ガイドライン」(http://www.okayama-u.ac.jp/user/pedhome/dfiles/guide.pdfもしくはhttp://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/051121Guide.pdf)が作成された。

2004/05シーズンからは5類疾病となった急性脳炎のサーベイランスに組み込まれる形で、医師は経験したインフルエンザ脳症を含む、急性脳炎・脳症と診断したすべての症例を保健所に届け出なければならないこととなった。これに基づいた2005/06シーズンの感染症発生動向調査の急性脳炎サーベイランスとして全国の自治体から報告されたインフルエンザ脳症の発生報告数について記述する。

報告数はこれまでで51例であり、型別では「A型」47例(92%)、「B型」4例(7.8%)であった。2005/06シーズンの流行状況を反映してA型のインフルエンザウイルス感染に起因する脳症が多く、また報告時点での死亡例は5例(9.8%)であった。発症者の年齢は0〜15歳までであり、6歳以下からの報告数が44例(86%)であった。また前シーズンにおける報告のような成人や高齢者での報告例はみられなかった。

現在の感染症発生動向調査システムによってインフルエンザ脳症発生のサーベイランスを行うことは、発生例を迅速に把握し、シーズン中の傾向をみるためには非常に有用であると思われるが、まだすべてのインフルエンザ脳症発生例を把握できていない可能性が高く、また本サーベイランスだけでは、発症者の経過を観察することは不可能である。

以下に、森島班が実施した2004/05シーズンのインフルエンザ脳症の全国調査についてその概略を紹介する。2004/05シーズンはインフルエンザ定点医療機関からの報告患者数は 150万人と、最近11シーズンでは最大の流行となり、推計される全国の患者発生数は1,770万人であった。インフルエンザウイルス亜型からみると、B型、AH3亜型、AH1亜型の混合流行で、B型が流行の中心であり、そのほとんどが山形系統株であった(IASR 26: 287-288, 2005)。インフルエンザ脳症の調査では、 103例の報告が得られたが、これは前シーズンである2003/04シーズンの 102例の報告数と比べて大きな増減はなかった。脳症発症後の死亡はおよそ10%前後であり、致命率も2003/04シーズンと比べて大きな変動はなかった。

インフルエンザ脳症の発生動向を追求することは、本症の病態や疫学状況を解明し、発生の予防や予後の改善に繋げていく上において極めて重要であると考えられる。そのためには漏れなくインフルエンザ脳症の発生報告を把握することと、より詳細な情報を入手することが今後の課題である。

国立感染症研究所感染症情報センター 安井良則 上野久美 岡部信彦

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