2004/05シーズン(2004年9月〜2005年8月)のインフルエンザ定点からの報告患者数は約150万人と最近11シーズンでは最大の流行であり、それから推計される全国の患者数は約1,770万人であった。B型、AH3型、AH1型の混合流行であり、B型が流行の中心で、そのほとんどが山形系統株であったことは日本だけの特徴であった。
患者発生状況:感染症発生動向調査では、全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科3,000、内科2,000)から、臨床診断されたインフルエンザ患者数が週単位で報告されている。過去10シーズンと比較すると、2004/05シーズンのピークの高さは1994/95、1997/98シーズンに次いで3番目であったが(http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/01flu.html参照)、流行期間が長かったためシーズン全体の累積患者数は定点当たり321.5で最も多かった。週別患者数は立ち上がりが遅く、2005年第3週に全国レベルで定点当たり1.0人を超えた後、急激に増加した。2005年第9週をピークに減少し、第19週には定点当たり1.0以下になった(図1)。定点当たり報告数を都道府県別にみると(図2)、関東・東海・北陸で早く、北海道・東北で遅れて患者報告が増加した。定点当たり報告数は全国的流行が収まっていったん0.1以下になったが、沖縄県でみられた地域流行(IASR 26: 243, 2005参照)を反映して第27〜30週に、この時期では1990年以来初めて0.1を超えた。2003年11月から全数届出が開始された「急性脳炎」として、51例のインフルエンザ脳症の報告があった(本号9ページ参照)。
インフルエンザによる関連死亡:国民の総死亡数からみた2004/05シーズンのインフルエンザによる超過死亡は、2005年2〜4月に15,100人と推計された(本号7ページ参照)。
ウイルス分離状況:全国の地方衛生研究所から報告された2004/05シーズンのインフルエンザウイルス分離例はB型 3,348例、AH3型2,513例、AH1型184例であった(2005年10月21日現在報告数、表1)。
AH3型は2004年第36週に愛知、第39週に大阪で報告されたのを始めとして(IASR 25: 290-291, 2004参照)、各地で少数の分離が続いた後、2005年第3〜5週に急増した(図1)。第10週以降減少したが、夏になっても地域流行となった沖縄やその他の地域で、途切れることなく分離された。奈良では7〜8月にかけて施設内流行が報告された(IASR 26: 244-245, 2005参照)。B型は2004年第42週に山形、第46週に茨城、兵庫で報告された後、AH3型と同時に2005年第3週から増加し始めたが、ピークは第7週と遅く、その後第20週まで報告が続いた(図1)。一方、AH1型は2002/03シーズンは1例、2003/04シーズンは5例とほとんど分離報告がなかったが、2004年第46週に福島、岡山で報告され、第48週〜2005年第13週まで分離が続いた。その後も第17、18、19週に各1例、第25、28週に各2例がそれぞれ異なる地域で分離された。
インフルエンザウイルス分離例の年齢分布をみると、AH3型は12歳以下が多く、13歳以上は少なかった。これに対し、B型は小児では6歳、成人では30代にピークがみられた。AH1型は2〜10歳からの分離が主であった(図3)。
2004/05シーズン分離ウイルスの抗原解析と2005/06シーズンワクチン株:AH1型の抗原性は2004/05シーズンワクチン株であるA/New Caledonia/20/99に類似していた。AH3型はシーズン前半には前シーズン主流であったA/Fujian(福建)/411/2002類似株(代表株は2004/05シーズンワクチン株のA/Wyoming/3/2003)が多く分離されたが、後半にはA/California/7/2004類似株が大半を占めた。B型は99%が山形系統株で、大部分が2004/05シーズンワクチン株であるB/Shanghai(上海)/361/2002に類似していた(本号3ページ参照)。
2005/06シーズンのワクチン株は、AH3型はA/California/7/2004類似株であるA/New York/55/2004に変更され、AH1型はA/New Caledonia/20/99、B型は山形系統に属するB/Shanghai/361/2002が引き続き選択された(IASR 26: 270-272, 2005参照)。
インフルエンザワクチン生産量と高齢者の接種率:2004/05シーズンは2,074万本が製造され、1,643万本が使用された。2005/06シーズンには約2,150万本の需要が見込まれている(本号14ページ参照)。予防接種法に基づく高齢者(主として65歳以上)に対する接種率は2004/05シーズンは47%であった(厚生労働省医薬食品局血液対策課)。
鳥インフルエンザの流行:2005年6月下旬には、茨城県(本号12ページ参照)と埼玉県の一部で低病原性のA/H5N2型が鶏の間で流行し、約200万羽の鶏が感染死または殺処分された。現時点では国内外でA/H5N2型のヒトの感染発症例はない。
新型インフルエンザ対策:WHOは世界パンデミック事前対策計画を発表している(http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/05pandemic.html参照)。日本においても厚生労働省が2005年10月28日に対策推進本部を設置し、国の行動計画を策定中である。
重症急性呼吸器症候群とインフルエンザの鑑別診断には、インフルエンザ病原診断が重要であるため、非流行期の海外渡航者からのインフルエンザウイルス検出報告が増えていた(IASR 24: 281-282, 2003 & 25:278-279, 2004参照)。さらに2004/05シーズンの非流行期には鳥インフルエンザウイルス感染を疑って検査されたベトナムからの帰国者(IASR 26: 222, 2005参照)や、中国からの帰国者(IASR 26: 243, 2005参照)、タイからの帰国者(本号17ページ)からAH3型が分離されている。一方、2004/05シーズン後半の非流行期には渡航歴のない患者からAH3型(本号16ページ参照)、AH1型が検出されたことが注目される。通年的なインフルエンザサーベイランスの重要性が一層明確となっており、医療機関の検体採取・提供への協力と地研での検査体制のさらなる充実が必要である。
2005/06シーズン速報:AH3型が第36、37週に三重(本号17ページ参照)、第37週に長崎(小学校集団発生)、第39週に神戸(タイからの帰国者、本号17ページ参照)第42週に沖縄(中学校集団発生)、第43週に神戸で分離されている。また、A/H1N1型が第36週に東京で小学校集団発生からPCRで検出されている。
今シーズンは11月7日をキックオフデーとして、インフルエンザ総合対策の取り組みが開始されている(本号15ページ参照)。