The Topic of This Month Vol.19 No.12(No.226)
感染症サーベイランス情報による最近11シーズンのインフルエンザ様疾患患者週別発生状況を図1aに示した。1997/98シーズンの状況を見ると11、12月にはほとんどインフルエンザ様疾患の発生報告がなく、1998年第3週から急激に増加、第5週は29都道府県で定点あたり患者数は50人を超え、全国の定点医療機関から合計136,929人の患者数が報告され、1987年に本疾患のサーベイランスを開始して以来最高の報告数となった。しかしこれをピークに第7週からは低下傾向に転じ、10〜12週にかけて流行は消退した。最近のわが国のインフルエンザの流行状況は毎年11月下旬〜12月上旬頃より年末まで小流行がみられ、その後1〜3月頃にかけて大きい流行となり、4〜5月にかけて減少していくというパターンであることが多いが、1997/98シーズンは1998年1〜2月の極めて短い期間に爆発的に全国的な大流行がみられたという点が特徴的であった(図2)。
1998年第1四半期(第1〜13週)にインフルエンザ様疾患として報告された患者の年齢をみると(図3a)、1〜9歳ではどの年齢もほぼ同数であり、0歳はこれらの年齢層に比較し1/3 〜1/4 と少ない。現行のサーベイランスでは10〜14歳は5歳階級の年齢区分であり、また定点の多くは小児科診療所であるため15歳以上の患者の報告数は少なく、これらの年齢層での詳細は不明である。
次に、IDSCに寄せられたインフルエンザウイルス分離報告数について述べる。最近3シーズンの週別の推移を示したものが図4、11シーズンの型別報告数をまとめたものが表1である。なおこの中には上記サーベイランス定点で採取された検体以外に、幼稚園・小中学校などにおける集団発生時の調査などで採取された検体の分離成績も含まれている。1997/98シーズンのインフルエンザウイルス分離数は6,144株であり、1996/97シーズンの6,072株を上回る過去最高の報告数で、そのほとんど(98%)がA(H3N2)型であった。A(H1N1)型は1998年第2〜8週にかけて12株が、B型は同じく第2週〜第26週(6月末)にかけて114株が分離された。インフルエンザの流行が一旦終息した後、5月に埼玉県の小学校・静岡県の中学校、6月には仙台市の小学校などで小規模なB型の集団発生がみられた(本月報Vol.19、No.7&8&9参照)。各地方衛生研究所より国立感染症研究所ウイルス第一部に送付されたA(H3N2)型分離株の抗原分析の結果では、A/武漢/359/95様変異株(1997/98シーズンワクチン株)とA/佐賀/128/97様変異株(世界各地で流行がみられたA/シドニー/5/97株の類似株)がほぼ同じ割合であった(本号3ページ参照)。
小児におけるインフルエンザの重篤な合併症として脳炎・脳症などの中枢神経合併症があり、近年これらの重症例の報告が増加している(本月報Vol.18,No.12特集参照)。図1bは、この11シーズンの全国約500の病院定点から報告された脳・脊髄炎患者報告数を示したものである(脳炎、脳症、ライ症候群、脊髄炎が報告対象であるが、そのほとんどは急性脳炎および脳症)。これまではインフルエンザ様疾患患者報告数(図1a)との間に明らかな関係はみられていなかったが、1998年1〜2月にはインフルエンザ様疾患の急激な増加と脳・脊髄炎の増加の一致が明瞭に見られている。両者は病原微生物を検出した上での診断ではないが、1997/98インフルエンザシーズンにおける急性脳炎・脳症の増加を示している。
1997/98シーズン中にインフルエンザウイルスが分離同定あるいはRT-PCRによりウイルスゲノムが検出されたと報告された急性脳炎・脳症患者数は74例(ライ症候群1例を含む)であり、1996/97シーズンの19例を上回る過去最高の報告数であった(図1c)。74例中髄液から分離されたものは13例、RT-PCRのみ陽性1例、肺・気管支から分離されたものが1例で、残りの59例は鼻咽喉からの分離であった(各地方衛生研究所からの報告は本月報Vol.19、No.4&6&7を参照)。年齢は1〜3歳が43例(58%)で5歳以上は少ない(図3c)。また報告された時点で死亡が明らかであったものは、74例中11例であった。ちなみに本年開催された厚生省「インフルエンザと脳炎・脳症に関する研究班」では、1997/98シーズンにおけるわが国のインフルエンザ脳炎・脳症による死亡者は100〜200人程度であったと推計している。
1998/99シーズン用のわが国のワクチン株は分離株の抗原分析により、A/北京/262/95(H1N1)、A/シドニー/5/97(H3N2)、B/三重/1/93の3株が用いられることになった(本号4ページ参照)。わが国におけるインフルエンザワクチンは幼稚園児から中学生を対象とした集団接種が主に行われていたが、1994年の予防接種法改正に伴い、対象を全年齢、特に幼稚園児から中学生および高齢者とし、任意の個別接種に改められている。欧米では高齢者のインフルエンザは肺炎などを合併して死に至る可能性が高いとして、特に高齢者に対するワクチン接種を積極的に勧めている(本月報Vol.19、No.11外国情報参照)。
速報:伝染病流行予測事業では1998年秋に採取された健常人血清について地方衛生研究所がインフルエンザ抗体を測定している。IDSCで集計中の速報によると、A/シドニー/5/97(H3N2)に対する抗体保有率は低年齢層では比較的高いが、高齢者では低いこと、A/北京/262/95(H1N1)およびB型変異株B/北京/243/97に対する抗体保有率は全体に低いことが結果として得られている(本号5ページ参照)。
1998/99シーズン初めて福岡市で9月末にA/シドニー/5/97株類似のA(H3N2)型1株が分離された(本月報Vol.19、No.11参照)。その後11月に入り、小学校における集団発生から石川県でA(H1N1)型が2株、静岡県でB型が7株分離されている(本号4ページ参照)。また、神奈川県でも2歳児よりA(H3N2)型が分離された(1998年12月8日現在)。 なおIDSCでは1997年11月よりインターネットのホームページ(http://idsc.nih.go.jp)上で流行期間中の国内のインフルエンザ発生状況を地図上で表し、迅速な情報提供を行っている。