The Topic of This Month Vol.29 No.1(No.335)

レプトスピラ症 2003年11月〜2007年11月
(Vol. 29 p. 1-2: 2008年1月号)

レプトスピラ症はレプトスピラ属菌(Leptospira spp.)による人獣共通感染症である。ヒトは、レプトスピラを保菌する動物の尿との直接的な接触、あるいは尿に汚染された水や土壌との接触により経皮的または経口的に感染する。レプトスピラ症は急性熱性疾患で、感冒様の軽症型から、黄疸、出血、腎不全を伴う重症型までその臨床症状は多彩である(本号5ページ)。

2003年の感染症法の改正により、レプトスピラ症は感染症発生動向調査の4類感染症として位置づけられ、診断した医師は直ちに保健所に届け出なければならない(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-40.html)。

患者発生状況:2003年11月以降、19の都府県から国内および輸入例を含め合計93例の患者が届出られている(2007年12月10日現在)。国内例87例のうち、40例(46%)が沖縄県での感染が推定されている(図1表1)。また、残り6例の輸入例の推定感染地は、マレーシア・ボルネオ島(3例)、インドネシア・バリ島(1例)、タイ(1例)、フィジー(1例)の4カ国である(表1、本号8ページ)。

患者は夏から秋にかけて多くみられ、国内例の76%(66例)が8〜10月の3カ月間に集中していた(図2)。全体の87%(81例)が男性の患者であった。患者の年齢の中央値は52歳(11歳〜82歳)で、年齢別では50代が21例(23%)と一番多く、次いで30代15例(16%)、60代14例(15%)となっていた(図3)。10代の患者は5例で、すべて沖縄県で感染しており、不明の1例を除いてすべて夏季の河川、滝での感染が推定されている。死亡例は沖縄県と静岡県からそれぞれ1例ずつ届出られている(本号10ページ13ページ)。

推定感染原因:レプトスピラは、齧歯類を中心とした多くの哺乳動物の腎臓に定着し、尿中へと排出される。したがってレプトスピラ症の感染原因としては、保菌動物の尿で汚染された環境のなかでの労働やレジャー、また、動物の尿や血液に直接触れる可能性のある労働などがあげられる。届出された93例の推定感染原因は、感染症発生動向調査の届出内容および国立感染症研究所(感染研)細菌第一部が医療機関から直接検査依頼を受けた際に得られた情報に基づくと次のとおりである(表1)。(1)農作業(高原での作業を含む);10県からの31例、(2)河川でのレジャーや労働;23例(4県からの19例、九州地方の1例、海外の3例)、(3)河川以外での淡水との接触(労働など);16例(6県からの15例、海外の1例)、(4)ネズミとの直接、間接的接触(自宅や作業現場でネズミを目撃した事例も含む);6県からの17例、(5)ネズミ以外の動物との接触;3県からの4例、(6)不明;6例。河川やそれ以外の淡水との接触が感染原因と考えられた事例[上記の(2)、(3)項に当たる]のそれぞれ70%、56%が沖縄県での発生であった。また沖縄県では河川や池などでのレジャー、労働を原因とする集団感染の報告もある(本号10ページ)。感染原因がネズミ以外の動物との接触と推定された4例[上記の(5)項]のうち2例は、2005年に静岡県でペット用にアメリカから輸入したアメリカモモンガから感染した動物輸入業者の事例であった(IASR 26: 209-211, 2005)。また2004年の愛媛県の1例、2005年の宮崎県の2例は、台風とそれに伴う洪水後の河川での作業、農作業が感染原因と考えられた。

検査方法およびレプトスピラ血清型(本号7ページ):レプトスピラ症の病原体診断は、レプトスピラの分離、PCR法によるレプトスピラ遺伝子の検出、あるいは顕微鏡下凝集試験法(MAT)による抗体の検出(ペア血清による抗体陽転または抗体価の有意の上昇)により行われる。上記93例の病原体診断は、以下の方法に基づいた;60例がMATのみ、16例がMAT+分離、5例がMAT+PCR、2例がMAT+分離+PCR、1例がMAT+鏡検、6例が分離のみ、1例がPCRのみ、2例がその他の血清診断法(ラテックス凝集試験、Dipstick法)であった。

MATにより推定された起因のレプトスピラの血清型は、Australis、Autumnalis、Canicola、Copenhageni、Grippotyphosa、Hebdomadis、Icterohaemorrhagiae、Javanica、Kremastos、Poi 、Pyrogenes、Rachmati、Sejroeの13種類であった。血清型Grippotyphosa、Javanica、Pyrogenesは沖縄県で感染した患者からのみ検出された(動物輸入業者の例は除く)。

治療:重症患者に対する抗菌薬としてはペニシリンがあげられている。より症状の軽い場合の抗菌薬としては、アモキシシリン、アンピシリン、ドキシサイクリン、エリスロマイシンがあげられている(WHO, Human leptospirosis: guidance for diagnosis, surveillance and control, 2003; http://www.who.int/csr/don/en/WHO_CDS_CSR_EPH_2002.23.pdf)。

家畜伝染病予防法に基づく届出数:2003〜2006年の家畜でのレプトスピラ症発生状況をみると、イヌは2003年に25都道府県で144頭、2004年に30都府県で158頭、2005年に13都府県で71頭、2006年に19府県で40頭、ブタは2004年に沖縄県で9頭が報告されている(http://niah.naro.affrc.go.jp/disease/fact/42.html)。

レプトスピラ症の問題点:1970年代初めまでは年間50例以上の死亡例が報告されていたが、近年の著しい患者数の減少から、多くの医療関係者にとってレプトスピラ症は過去の病気として認識されている。しかし、患者の届出がない地域においても、レプトスピラを保有するネズミやレプトスピラに感染したイヌ等が存在することから(本号5ページ)、それらの地域においては感染者が見逃されている可能性が考えられる。重症型の場合は、黄疸、出血、腎不全などの典型的な症状が出現するのでワイル病としてレプトスピラ症が鑑別診断の対象となるが、軽症型の場合には非特異的な臨床症状に留まり、レプトスピラ症の臨床診断を下すことが非常に難しい。しかし、非特異的な臨床症状でも、患者の土壌や水との接触歴や海外渡航歴等の情報を参考にすることにより、レプトスピラ症を疑い感染者を発見できた事例がある(本号8ページ)。

レプトスピラの病原体診断のためには特別な分離培地や血清診断法が要求されるので、特定の地方衛生研究所や感染研に検査を依頼するしかないのが現状である。国内のレプトスピラ症の実態を明らかにしていくためには、今後、簡便な検査法の開発などを通して多くの機関で検査ができる体制を整えていくことが必要であろう。

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