The Topic of This Month Vol.30 No.9(No.355)

HIV/AIDS 2008年
(Vol. 30 p. 229-230: 2009年9月号)

エイズ発生動向調査は1984年に開始され、1989年〜1999年3月まではエイズ予防法、1999年4月からは感染症法に基づき、診断した医師の全数届出が義務付けられている(届出基準はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01.html)。本特集のHIV感染者(AIDS未発症者)数とAIDS患者数は厚生労働省エイズ動向委員会による平成20年エイズ発生動向年報(平成21年6月17日確定)に基づく。なお、同年報は厚生労働省疾病対策課より公表されている(http://api-net.jfap.or.jp/htmls/frameset-03-02.html)。

1.1985〜2008年までのHIV/AIDS報告数の推移:2008年に新たに報告されたHIV感染者は1,126(男1,059、女67)、AIDS患者は431(男391、女40)で、ともに過去最高であった(図1)。

1985〜2008年の累積報告数(凝固因子製剤による感染例を除く)はHIV感染者10,552(男8,590、女1,962)、AIDS患者4,899(男4,307、女592)で、2007年10月1日人口10万対累積HIV感染者は8.259、同AIDS患者は3.834となった。なお、この他に「血液凝固異常症全国調査」において血液凝固因子製剤によるHIV感染者1,439(生存中のAIDS患者169および死亡者638を含む)が報告されている(2008年5月31日現在)。

国籍・性別:HIV感染者・AIDS患者ともに日本国籍男性の増加が続いており(HIV感染者2007年931→2008年999、AIDS患者343→359)(図2)、2008年のHIV感染者の89%、AIDS患者の83%を占めた。一方、日本国籍女性および外国国籍男性のHIV感染者・AIDS患者、外国国籍女性のHIV感染者は減少した(図2)。

感染経路・年齢群別:日本国籍男性の感染経路は、同性間性的接触(両性間性的接触を含む)が多く、HIV感染者では2007年692→2008年743、AIDS患者では152→182と、ともに過去最高を更新した(図3)。日本国籍男性の同性間性的接触によるHIV感染者を年齢群別にみると、2007年まで増加の著しかった30代が304→290と微減したが、20代、40代は増加が続いた。また、50代は26→49と著明な増加が認められた(図4)。2008年の日本国籍男性HIV感染者における同性間性的接触の占める割合は15〜49歳では78%を占め、50歳以上でも52%と異性間性的接触28%のほぼ倍であった。日本国籍女性の感染経路は、ほとんどが異性間性的接触である。静脈薬物使用によるものは諸外国に比べわが国では少なく、2008年に日本国籍者6、外国国籍者4、計10で、これ以外に静脈薬物使用と性的接触両方6が「その他」に含まれていた。2008年に母子感染の報告はなかった。

推定感染地域:日本国籍者では男女ともに国内での感染が多く、2008年はHIV感染者の91%(男性92%、女性85%)、AIDS患者の76%(男性76%、女性68%)を占めた。また、外国国籍男性のHIV感染者でも、2001年以降、国内感染が国外感染を上回っている。

報告地:診断した医師が届出をした都道府県別では、2008年のHIV感染者の報告数は多い順に、東京、大阪、神奈川、愛知、福岡、兵庫、埼玉、千葉、静岡、京都、沖縄、北海道、広島、岡山、茨城、栃木、群馬で、これら17都道府県で報告数が10を超えている。ブロック別では、依然として関東・甲信越ブロックが最も多く54%(東京のみで40%)、次いで近畿ブロックが22%(大阪のみで17%)を占めた。北海道・東北、東海ブロックを除く地域で2007年より増加した。

2.献血者のHIV抗体陽性率:2008年は献血件数5,077,238中107(男104、女3)の陽性者がみられ、献血10万件当たり2.107(男3.065、女0.178)と、2007年(2.065)をさらに上回った(図5)。

3.自治体が実施したHIV抗体検査と相談:自治体が保健所および保健所以外で実施したHIV抗体検査実施件数は増加が続き、2008年は177,156 (2007年153,816)であり(図6)、陽性件数は501(陽性率0.28%)であった。このうち保健所での検査件数は146,880、陽性件数307(同0.21%)に対し、保健所以外の検査件数は30,276、陽性件数194件(同0.64%)と、2008年も利便性の高い後者の陽性率が高かった。相談件数も増加が続き、2008年は230,091件(2007年214,347件)であった。

4.HIVの薬剤耐性とサブタイプ:日本で治療を受けている症例では薬剤耐性HIV症例数は少ないが、新規HIV/AIDS症例の治療開始時点での薬剤耐性HIV感染率は上昇傾向にある(2003〜2004年4.0%、2005年7.8%、2006年6.6%、2007年9.7%、本号4ページ)。日本の新規HIV/AIDS症例は、感染しているHIVのサブタイプによって、同性間性的接触でサブタイプBに感染した日本国籍男性、異性間性的接触でCRF01_AEに感染した日本国籍、異性感性的接触でnon-Bに感染した外国籍の3つに大きく分類される(本号6ページ)。また、国内感染が疑われるHIV-2感染者が報告されている(本号7ページ)。

まとめ:2008年のHIV感染者とAIDS患者の報告数はともに過去最高となり、献血者におけるHIV抗体陽性率も過去最高を記録した。日本国籍男性のHIV感染者は同性間性的接触を中心にいずれの年齢層においても増加している(本号3ページ)。一方で、毎年12月の世界エイズデーに加えて、2006年以降毎年6月に行われているHIV検査普及週間による啓発と検査体制の強化など、各自治体等の関係者の努力が検査・相談件数の増加に結びついているものと考えられる。

国と自治体は、青少年、外国人、同性愛者、性風俗産業従事者および利用者や報告増加の著しい男性中高年層に対して、各地域の発生状況に応じて、教育関係者、医療関係者、企業、NGO等と協力し、予防に関する普及啓発と感染の早期発見による適切な治療の促進により感染拡大の抑制を図る必要がある。

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る