2008/09シーズン(2008年第36週/9月〜2009年第35週/8月)は季節性インフルエンザのAH1亜型とAH3亜型が先行して流行し、1月末にピークを形成した後、B型が3月に2つ目のピークを作った。流行が終息に向っていた4〜5月にAH3亜型が再増加、5月以降新型のAH1pdmが大きく増加するという特異な流行パターンとなった(IASR 30: 255-270, 2009)。
患者発生状況:感染症発生動向調査では、全国約5,000のインフルエンザ定点医療機関(小児科3,000、内科2,000)から、臨床診断されたインフルエンザ患者数が週単位で報告されている。定点当たり週別患者数は、2008年第49週に全国レベルで流行開始の指標である1.0人を超えた。2009年第4週(37.5人)と第11週(16.5人)に2つのピークとなった後、第22週に全国レベルで1.0人を切った(図1およびhttp://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/01flu.html)。パンデミック(H1N1)2009の発生当初には各自治体で発熱患者が発熱外来に誘導されたため、定点当たり週別患者数の増加はみられなかったが、第28週以降増加が続き、第33週に再び1.0人を超えた(1.7人)。2008/09シーズンのピークは過去10シーズンでは2004/05、2002/03シーズンに次いで3番目に高かった。シーズン全体の定点当たり累積患者数(288.70人)は2004/05シーズンに次いで2番目であった。
都道府県別にみると、2008/09シーズンの季節性インフルエンザの流行は北海道で早く始まった(https://nesid3g.mhlw.go.jp/Hasseidoko/Levelmap/flu/index.html)。沖縄では、過去4シーズン同様に2008/09シーズンも夏季まで季節性インフルエンザの流行が遷延していたが、7月末から全国に先駆けてパンデミック(H1N1)2009の流行が起こった(IASR 30: 264-265, 2009)。
5類感染症の「急性脳炎」として全数届出が必要なインフルエンザ脳症は2009年第18週までに季節性による53例(A型42、B型7、型不明4)、間を置いて第27〜35週までに14例(AH1pdm10、A型3、B型1)が報告された。
ウイルス分離・検出状況:全国の地方衛生研究所(地研)で分離された2008/09シーズンのインフルエンザウイルスは9,963であった(2009年11月4日現在報告数、表1)。その他にAH1pdmとの鑑別診断を地研が行ったため、PCRのみによる検出数が6,471と大きく増加した。分離およびPCRを含めた検出総数16,434のうち、インフルエンザ定点以外の検体からの検出数(8,838)がインフルエンザ定点の検体からの検出数(7,596)を上回った(表2)。また、海外渡航者からの検出数がAH1pdm(692)だけでなく、季節性インフルエンザ(AH1亜型39、AH3亜型154、B型3)でも大きく増加した(表1)。
2008/09シーズンは当初より集団発生からのAH3亜型(IASR 29: 340, 2008)、B型(Victoria系統)(IASR 29: 340-341, 2008)、AH1亜型(IASR 29: 341, 2008)の分離報告が相次いだ。AH1亜型はオセルタミビル耐性遺伝子変異H275Yを保有する株が10月に仙台市(IASR 30: 47-49, 2009)、11月に滋賀県(IASR 30: 49, 2009)で検出され、これが全国的に流行の主流となった(IASR 30: 49-53, 2009)。2008/09シーズンに解析されたAH1亜型分離株の99%以上が耐性株であった(本号3ページおよび IASR 30:101-106, 2009)。
AH3亜型はAH1亜型とともに増加し(図1)、2009年第4週をピークに減少したが、第21週をピークに再増加した(IASR 30: 182-183, 2009 & 30:183-184, 2009)。A型と入れ替わりに遅れて増加したB型は第10週をピークに第28週まで分離された(図1およびhttp://idsc.nih.go.jp/iasr/prompt/graph-pkj.html)。
第19週に初めて検出されたAH1pdmはインフルエンザ定点での検出が第32週以降増加している(図1)。
ウイルス分離例の年齢分布をみると、2シーズン連続で流行の主流となったAH1亜型は小児では6歳、成人では30代がピークで、2007/08シーズンとほぼ同様であった(図2)。AH3亜型は各年齢とも2007/08シーズンより増加した。B型は8歳をピークに主として小児から分離された。AH1pdmは15〜19歳からの分離が飛びぬけて多かった。
2008/09シーズン分離ウイルスの抗原解析:AH1亜型流行株はA/Brisbane/59/2007(2008/09シーズンワクチン株)類似株がシーズン前半(9〜2月)には94%、シーズン後半(3〜8月)には85%を占めた。AH3亜型はA/Uruguay/716/2007(2008/09シーズンワクチン株)類似株がシーズン前半には72%を占めたが、3月以降、抗原性の異なるA/Perth/16/2009類似株が75%を占めた。B型はVictoria系統株が75%を占めた。Victoria系統株はB/Malaysia/2506/2004(2006/07〜2007/08シーズンワクチン株)からは抗原性が大きく変化しており、山形系統株はB/Florida/4/2006(2008/09シーズンワクチン株)とは抗原性の異なるB/Bangladesh/3333/2007に類似していた。AH1pdmは抗原的に均一で、ワクチン株であるA/California/7/2009pdmに類似していた(本号3ページ)。
2009/10シーズンワクチン株:AH1亜型はA/Brisbane/59/2007、AH3亜型はA/Uruguay/716/2007で2008/09シーズンと同じであるが、B型はVictoria系統に属するB/Brisbane/60/2008に変更された(本号3ページ)。
インフルエンザワクチン生産量と高齢者の接種率:2008/09シーズンは季節性用2,696万人分(成人1人2回接種の場合、以下同様)が製造され、推計で2,451万人分が使用された。予防接種状況調査における2008/09シーズンの予防接種法に基づく高齢者(主として65歳以上)に対する接種率は56%であった(2007/08シーズンは55%)。2009/10シーズンには季節性用ワクチンを2,252万人分程度製造後、パンデミック(H1N1)2009ワクチンの製造に切り替えて、2010年3月末までに国内製造品で2,700万人分供給の見込みである。パンデミックワクチンは医療関係者への接種を皮切りに10月19日に開始された。
おわりに:パンデミック(H1N1)2009が国内流行期に入り、従来から継続されている患者発生動向調査と病原体サーベイランスによって流行状況を把握することが益々重要となっている。通年的にウイルス分離を行い、ワクチン候補株を確保するとともに、流行株の抗原変異、遺伝子変異、抗インフルエンザ薬耐性の出現の監視体制強化が必要である。なお、既に2010年南半球用ワクチン株は季節性AH1亜型に代えてA/California/7/2009pdmが推奨されている(本号17ページ)。
2009/10シーズン速報(http://idsc.nih.go.jp/iasr/influ.html):多数のAH1pdm分離・検出が続いているが、第36〜39週に福岡、北海道、埼玉、静岡、和歌山でAH3亜型計7件が分離・検出されている(本号13ページ)。B型は第29週以降、AH1亜型は第36週以降検出されていない(2009年11月10日現在)。