The Topic of This Month Vol.32 No.5(No.375)

腸管出血性大腸菌感染症 2011年4月現在
(Vol. 32 p. 125-126: 2011年5月号)

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は、感染症法に基づく感染症発生動向調査の3類感染症として、大腸菌の分離・同定とVero毒素(VT)の確認により診断した医師の全数届出が義務付けられている(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-03-03.html)。さらに、医師から食中毒として保健所に届出があった場合や、保健所長が食中毒と認めた場合には「食品衛生法」に基づき、各都道府県等において調査および国への報告が行われる。一方、地方衛生研究所(地研)がEHECの検出、血清型別、毒素型別を行い、国立感染症研究所細菌第一部では分離菌株について詳細な分子疫学的解析を行ってパルスネットで情報提供している(本号4ページ)。

発生動向調査:2010年にはEHEC感染症患者(有症者)2,719例、無症状病原体保有者1,416例、計4,135例のEHEC感染者が報告された(表1)。2010年の週別報告数は、例年同様、夏季に流行のピークがみられた(図1)。人口10万対都道府県別報告数は三重(18.72)が最も多く、岩手(10.15)、佐賀(6.34)がそれに続き、例年同様かなりの地域差がみられた(図2左、IASR 31:152-153, 2010)。2006〜2009年に発生の多かった地域は2010年も多い傾向が見られた。2010年のEHEC感染者は例年同様0〜4歳がもっとも多く、5〜9歳がこれに次いだ(図3)。0〜4歳について人口10万対報告数を都道府県別にみると、岩手、長野、奈良が多かった(図2右)。無症状病原体保有者は患者発生時の積極的疫学調査や調理従事者等の定期検便などで発見される。有症者の割合は男女とも若年層と高齢者で高く、30代、40代、50代では低かった(図3)。この傾向は例年同様であった。また、HUS症例は92例あり、有症者のうち3.4%であった(本号17ページ)。そのうち、菌が分離された62例の血清群・毒素型をみると、O157が89%を占め、VT2を含む株(VT2単独およびVT1&2)が87%を占めた。死亡例が5例(うち、HUS3例;2歳男性、60代女性、70代男性)報告された。

EHEC検出報告:2010年に地研から国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)に報告されたEHEC検出数は2,007であった。EHEC感染者報告数(表1)と開きがあるが、これは、現行システムでは医療機関や民間検査機関で検出された菌株が地研に一部しか届かないことによる。全検出数における上位3位のO血清群の割合は、O157が69%、O26が17%、O103が3.1%であった(本号3ページ)。2005年から分離頻度の高い7つの血清群が市販抗血清に追加されているが、抗血清が市販されていない血清群も検出されており(http://idsc.nih.go.jp/iasr/virus/bacteria-j.html)、EHECの同定には血清群別によらずVTの確認が必須である。分離菌株が産生しているVT(または保有している毒素遺伝子)の型をみると、2010年も例年同様O157ではVT1&2が71%を占めた(1997〜2009年は53〜68%)。O26ではVT1単独が91%で、O103ではすべてVT1 単独であった。O157が検出された1,384例中、不詳を除く1,354例の主な症状は下痢57%、腹痛56%、血便41%、発熱23%であった(本号3ページ)。

集団発生:2010年に地研からIDSCに報告されたEHEC感染症集団発生は27事例あり、うち16事例がO157によるものであった。菌陽性者10人以上の13事例を表2に示す。4事例では伝播経路が食品媒介と推定され、8事例では人→人感染と推定された。また、2事例では水遊びでの感染があったと推定されている。なお、「食品衛生法」に基づいて都道府県等から報告された2010年のEHEC食中毒は27事例、患者数358名(菌陰性例を含む)であった(2009年は26事例181名)(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/04.html)。

2010年には生レバーを推定原因としたO157による食中毒事例が名古屋市で発生したが、同時期に愛知県内の複数の焼肉店においても患者が発生した(本号4ページ5ページ)。これらの事例は、生レバーの販売ルートの遡り調査と分離菌株の遺伝子解析で共通の原因食品によることが明らかにされた。散発事例から広域集団発生事例を迅速に探知してその拡大を阻止するためには、疫学情報と分離株の解析結果を地研・地方自治体等の関係機関がリアルタイムに共有する必要がある。厚生労働省は平成22年4月16日に「EHEC O157による広域散発食中毒対策について」の通知を出して注意を喚起している(IASR 31: 160-161, 2010)。

予防:EHEC感染症は、少数の菌で汚染された食品であっても感染の原因となりうるため、食中毒予防の基本を守る必要がある。特に、若齢者、高齢者など、抵抗力が弱い者は、生肉または加熱不十分な食肉等を食べないことが重要である(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/03.html)。

赤痢同様EHECは、微量の菌により感染が成立するため、人→人感染で感染が拡大しやすい。2010年も依然として保育所での集団発生が多く7件あった(表2)。保育所等での集団感染予防には、普段からの園児・職員の手洗いの励行、夏季の簡易プールなどの使用における衛生管理に注意を払うことが重要である。さらに、家族内感染が多いので、患者が発生した場合には、家族に対して二次感染予防の指導を徹底する必要がある。

2011年速報:本年第1〜16週までのEHEC感染症届出数は211例である(表1)。第17〜18週にEHEC O111(VT2)による食中毒で死亡例が発生している(http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3762.html)。夏季にはEHEC感染症の増加が予想されるので、今後一層の注意喚起が必要である。

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