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臨床症状をおこすに要するコレラ菌の感染菌量は以前考えられていたよりすくないことが次第にはっきりしてきた。
古典型コレラ菌のある株を成人志願者に投与した場合,ID50が108〜109であったが,重炭酸ソーダを前もって与えておくと,104〜106に低下したことが知られている。しかし,最近のエルトール型を用いた研究では,重炭酸ソーダとの同時投与の場合,103の菌量で6人中4人を発症せしめている。
これらの人体実験や,疫学的観察,臨床的観察から,胃の酸度が感染抵抗性の大きな要因であり発症は胃酸度のひくい個体でおこりやすいことが明瞭である。また,大量の飲食物を摂取したあと,急速に胃が空になるといった場合に感受性が高まる。エルトール型を用いた志願者投与実験においても,菌が少量の水と共に与えられた場合よりも,食物と一緒に投与された方が少感染量で発症する。食物が胃酸を中和するのか,あるいは食物粒子に附着することによって菌が胃酸への暴露からまぬがれるのか不明である。これに関連したもうひとつの観察は,キチン粒子(かにの殻など)への附着は酸性環境におけるコレラ菌の生存を助長することである。
このようなわけで,102〜103という少菌量でもコレラ菌がヒトを発症せしめうると考えることはあながち無理ではない。実際,バングラデッシュの田園地区におけるコレラ野外研究では,自然な条件でもそのような菌量で発症にいたる可能性が示唆されている。
(WHO/DDC/EPE/80.3)
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