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Vol.1 (1980/10[008])

<国内情報>
わが国におけるサルモネラの現状


 サルモネラ血清型の多様化が口にされてからかなり久しい。これが問題にされはじめたのは1960年代の中頃からで,この年代の初期における貿易の自由化が明らかにその転機となっている。1950年代までは,サルモネラは医学者の間でさえも,むしろ“ゲルトネル菌”(S.enteritidis)の名のほうが通じたことでみられるように,ヒトの症例から分離される血清型の95%以上はS.enteritidisであった。1955年頃からS.enteritidisに代わってS.typhimuriumが優勢を占めるようになり,それと同時にS.thompson,S.give,S.potsdam,S.derbyなどの血清型がサルモネラ症に出現するようになったが,それでも当時ヒトのサルモネラ症から検出される血清型は,年間5ないし6種類に過ぎなかった。また,当時におけるこれらの血清型は,おもに輸入鶏卵によってもたらされたようである。貿易の自由化とともにはじまった外国からの肉類の輸入,日本人の食生活の変化によって,ヒトのサルモネラ症の原因血清型は“タマゴ型”から“食肉型”に移り,同時にその種類は年々増加の一方をたどってきた。日本サルモネラセンターでしらべたところだけでも,1965年には18種類,1970年には41種類,1978年には実に96種類の血清型がヒトのサルモネラ症から検出されている。

 いままでにわが国で検出されたサルモネラ血清型は200種類以上にのぼるが,環境や食肉に分布する血清型とヒト由来の血清型とは必ずしも平行しない。これは汚染食品の流通状態やヒトに対する病原性の強さなどが関係することによるものであろう。1978年度にヒトのサルモネラ症でみられた96血清型中,1%以上を占めたものはS.typhimurium(15.5%),S.agona(5.9%),S.cerro(6.9%),S.infantis(4.9%),S.anatum(4.0%),S.enteritidis(3.1%),S.give(3.1%),S.tennessee(3.1%),S.thompson(3.0%),その他S.braenderup,S.derby,S.havana,S.heidelberg,S.kingston,S.litchfield,S.livingstone,S.london,S.menston,S.montevideo,S.naestved,S.newport,S.ohio,S.oranienburg,S.paratyphi-B(d-Tartrate+),S.potsdam,S.saintpaul,S.sandiego,S.schwarzengrund,S.stanleyおよびS.virchowである。

 サルモネラ血清型の出現には,しばしば地域による相違がみられる。たとえば,上記の血清型中S.cerroおよびS.paratyphi-B(d-Tartrate+)はおもに関西方面で検出され,関東ではまれであったが,これはおそらくこれらのサルモネラに汚染された食品がおもに関西方面に出まわっていることによるものと思われる。S.cerroの検出は現在でもなおつづいており,このような例はアメリカ合衆国ではいちはやく各州が協力して汚染工場または汚染農場をつきとめ,防止対策に成功することが多いが,遺憾ながらわが国ではまだほとんど望み得ない手段である。

 近年,S.dublinおよびS.naestvedによるウシの流産,コウシのパラチフスが九州および山陰,近畿に発生しているが,それにともなってこれら両血清型によるヒトの急性胃腸炎がその近隣地域にみられるようになった。ヒトのサルモネラ症が直接,間接に家畜が関係することを示す如実な例で,この点ではヒトのサルモネラ症に対して,単に厚生省当局のみならず,農林水産当局もまた関心をもってもらいたいものである。

 なお,最近乳糖発酵性のサルモネラの検出がわれわれの注目を集めている。このような異常性状は多くの場合プラスミド性のもので,その増加はほとんどの場合,抗生物質の濫用に起因している。



予研細菌1部 坂崎 利一





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