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Vol.1 (1980/10[008])

<国内情報>
B型肝炎ウイルス母子間感染の実態


 確実な治療法のないウイルス病に関しては,予防が一番の対策であることはいまさらいうまでもない。B型肝炎ウイルスについても実態が明らかになると共に,主要な感染経路である輸血・医療機関等における水平感染・母子間感染の三つについて,それぞれに応じた対策が考えられてきた。輸血用・血液製剤の中からは,既にB型肝炎ウイルスは追放された。医療機関等で働くハイリスク・グループに対しては,感染源の把握と定期的検査・感染機会の発生時における迅速な高単位抗HBs・γグロブリン投与による発症阻止という方式が推奨され,近い将来には積極的な免疫獲得のワクチン投与の道も開かれる。

 一方,B型肝炎ウイルスの感染症において,慢性肝炎,肝硬変,肝ガンへと移行を起す可能性をもつHBs抗原キャリアーの発生を予防することは感染源対策の上からもきわめて重要なことである。我国における240万〜300万人のキャリアーのうち,約1/3が母子間感染によるもので,あとの2/3は乳幼児期又は,免疫力の低下時の感染によるものであろうといわれる。

 無症候性HBs抗原キャリアーのうちで,特に感染源として重要なe抗原陽性者は,乳幼児期では100%に近く年令の増加と共に感染性の低いe−抗体陽性者が多くなる*1)。従って,産院や小児科医院,及び保健所による乳幼児検診や予防注射等において,水平感染の機会を作ってはならない。我々は横浜市内の妊婦におけるHBs抗原・抗体の保有状況の実態を調査し,さらにe抗原・e抗体の有無を調べ,一部追跡調査をすると共に,分娩施設における水平感染予防に役立ててきた。対象は市内15保健所娩婦外来からの梅反依頼の検体と市立の分娩施設からの依頼である。(表1,2,3,図1)検査件数は市内全妊婦数の11%強に当る。

 新生児へのγグロブリン投与による母子間感染防御への展望が得られた現在,今後の対策を考えるうえでの資料となればと思う。

*1)日本におけるHBs抗原陽性供血者のHBe抗原と抗体の頻度 血液事業Vol.1 No.3 P.285 1978.9



横浜市衛生研究所 母里 啓子


表1.妊婦のHBs抗原・抗体保有状況
表2.HBs抗原陽性妊婦のe抗原・e抗体保有状況
表3.年度別妊婦のHBV抗原・抗体・検出頻度
図1.妊婦,年齢別HBs抗体保有状況





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