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1968年以来,福岡県における腸チフスの発生は,毎年10〜50名の患者,保菌者が認められている。又過去10年間(1968〜1978)の腸チフスファージ型(福岡,北九州を除く)を整理すると,D2型が22.5%,M1型が20%,E4型が13.5%の順で型別され,その他の型はE1,A-degraded,T69−97,D1,H,A,E11,B2,53型及びUTが数%ずつ検出されてきた。更に1979年にはこれまで検出されなかったファージ46型のチフス菌6例が新たに検出され,感染経路が注目されている。最近の発生を地域別にみると,患者は都市集中型をとっている。例えば1977年度の本県発生数は27名,1978年度は53名であったが,このうち福岡市の発生数はそれぞれ10名と21名であった。
以上のように福岡県における腸チフスは過去20年間散発的発生に過ぎなかったが,1978年5月本県の筑後地方に某郊外レストランを感染源とした腸チフスの集団発生が認められた(公衆衛生,43,673,1979)。分離菌のファージ型はいずれもD2型であった。この種の食堂は近年自動車の普及と相俟って増加傾向にあり,ここで感染症をひき起した場合病原体は広く拡散される可能性がある。今回の郊外レストランは9店舗の各種食堂から構成されていたが,発病者はこの中の某食堂で喫食したものに限られた。更に調査の結果,この中の某食堂経営者の家族が本発生数か月前にチフス様の家族内小流行を起していることもわかった。その後家族の一名からチフス菌(ファージD2)が検出された。したがってこの家族内の小流行が営業用の飲料水あるいは食品を汚染した可能性が強いと考えられたが,感染経路を明確にすることはできなかった。一方この発生時前に県内外の移住者がこの食堂を利用したとすれば流行は更に拡大したと考えられたが,その後他県からの発生報告はなかった。しかし潜在患者が広く拡散された可能性は否定できない。
腸チフスが家族内感染で小流行を繰り返す例は多い。したがって日常のファージ型別は発生時の疫学調査の上で重要な意義をもっているといえる。本県では毎年分離菌のファージ型別地図を作ってファージ型の推移を観察し,感染源対策としている。
福岡県衛生公害センター 常盤 寛
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