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本県のサーベイランス患者情報で得られた1983年4月の無菌性髄膜炎(AM)患者数(図1)は,例年より多い8名であったことから,今夏の流行が懸念された。昨年から今年にかけて,鳥取(石田等:病原微生物検出情報,42号,1983)などでエコーウイルス30型(E30)によるAMの流行が報告されていたので,秋田県にも波及してくる可能性が考えられた。5月は例年並みの3名にすぎず,懸念が消えたかにみえた。しかし,6月になって,青森に近い県北部から多発情報が入り,さらに7月になると,中央部の秋田市でも多発し,流行の様相がハッキリとしてきた。サーベイランスで把握した4月〜9月10日までのAM患者数は63名に達している。
このような患者情報とともに,検査定点で採取されるAMの被検材料も増加してきたが,これまでに終了した検査結果は表1のごとく,E30が病原であり,今夏のAMの流行はE30によるものであることが確認された。また,患者ペア血清の中和抗体価(表1)を測定してみると,分離株に対する抗体価や有意上昇率が標準株より高くなる傾向がみられ,流行株と標準株との間の抗原構造のずれが示唆された。そこで,分離株と標準株でそれぞれ作成したモルモット免疫血清を用いて交叉中和試験を行ってみた結果,表2のごとく,分離株は抗標準株血清でかなり中和されるが,標準株は抗分離株血清で1/4〜1/8程度しか中和されないという成績が得られ,今回の流行株の変異性が明らかとなった。
一方,流行を惹起した要因を解析するため,県内の子供達の免疫保有状況−これまでのE30の浸淫状況−を調べてみた。私共の得ている情報に限れば,昨年に至るまでE30が少なくとも東北地方で流行したという報告はなかったので,子供達の中和抗体保有率は極めて低率と予想された。実際に,1982年に県内の150名の小児から採取した被検血清について,標準株と分離株を用いて8倍スクリーニング法で中和抗体保有率を測定してみると,図2のごとく,標準株に対する抗体保有率は2〜3歳群,7〜9歳群および10〜15歳群でわずか3%にすぎず,また,分離株に対しては,10〜15歳群の6%を除くと,いずれも中和抗体が検出されなかった。つまり,本県ではE30の侵襲がほとんどなく,容易に流行し得る状況にあったわけである。
このように,今回のAM流行はE30の変異株がこれまで侵襲のほとんどなかった本県に侵入して惹起されたことがわかったのであるが,どの程度の侵襲が起きたのかは,流行後の小児血清を用いて解析する考えでいる。
なお,本報は本年9月に開催された第37回日本細菌学会東北支部総会で発表したもの(原田,佐藤,安部,森田,長沼)の概要である。
秋田県衛生科学研究所 森田 盛大,原田 誠三郎,佐藤 宏康,安部 真理子
秋田組合総合病院小児科 長沼 雄峰
図1.秋田県における無菌性髄膜炎患者の月別,地域別発生状況
表1.無菌性髄膜炎患者のウイルス学的及び血清学的検査成績
表2.標準株と分離株の交叉中和試験
図2.標準株と分離株(19132)に対する中和抗体保有状況(8倍スクリーニング)
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