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50国より約400人のポリオ専門家による国際シンポジウムが1983年3月14〜17日ワシントンDCのPan American Health Organization (PAHO)において開催された。後援はFogarty International Center of NIH,WHO,PAHOおよび他の多くの機関である。主題は,ポリオウイルスに関する最近の知見と世界各地の状況を知り,ワクチン接種の政策的,経済的,行政的問題点とポリオ撲滅の可能性を考えること,および必要な研究の認識と対策の勧告をだすことであった。討議された主な問題と勧告は次の通りである。
会議前の基調設問は本世紀中のポリオの世界的コントロールまたは撲滅の見通しはどうかということであった。コントロールを麻痺ポリオの撲滅または無視しうるまでの減少と考えれば,科学的見地からその手段は現在手中にあり,多くの国がすでにその状況にあるとみえるが,世界的コントロールは明らかに困難である。
最大の問題は熱帯および開発途上国でポリオが公衆衛生上重要な問題としてランクづけられえないために,政策としてとりあげる意思に欠けることである。問題の重要性,コントロールの可能性,ポリオに対する努力がその国の他の公衆衛生分野をも強化することなどを認識せしめ,医療関係者の協力とWHO等の外部からの援助を集中することが事態を改善するだろう。
世界的撲滅の可能性はあまり論議されなかった。少数の国では撲滅されているが,これは他の国で一般に考えられるよりははるかに高率の免疫を保つことによってのみ達成されている。しかもどの程度の集団免疫がウイルス伝播を阻止するかわかっていない。これは特にウイルスが広範に分布している地域では重要である。
ポリオ撲滅は天然痘とは著しく異なる。ポリオは天然痘よりも感染力が強く,不顕性率が高く,ワクチン特に不活化ワクチン(IPV)免疫は腸管感染を阻止せず,また検査室成績が伴わないと他の原因の麻痺例と区別しがたい。OPVが高温に弱いこと,IPVが高価で注射法によることなどが世界的撲滅のための実用上の隘路となる。
麻痺ポリオの世界的コントロールが実際上可能性のある今世紀中のゴールであると思われるが,撲滅もまた最終的ゴールとしてあきらめてはならない。困難ではあるとしても撲滅が明らかに安あがりであるという認識が推進の助けとなろう。
勧告
1.各国は国内のポリオの状況を把握し,コントロールを達成する計画を作成すべきである。
2.WHOや国連の免疫強化計画等は途上国のコントロール計画に対する援助を強化すべきである。
3.最終的ゴールは経常保健行政にポリオ免疫を組み込むことであるが,特別対策などその国の特殊事情にあわせた方策がとられるべきである。
4.1〜2回で有効な高力価のIPV開発について努力されるべきである。
5.より耐熱性でより弱毒化したワクチン開発について努力されるべきである。
6.熱帯地域の免疫問題を明らかにするため,さらに野外試験が必要である。
7.分子遺伝および免疫学が新しいvaccinologyを可能にしている。この方法により特異性が高く,標準化された安いワクチンの開発の可能性がある。
8.ワクチンの標準化,管理,検定,さらに野外研究における国際協力が不可欠であり,強化されるべきである。
(WHO,WER,58,45,350,1983)
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