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厚生省サーベイランス事業の患者発生情報によると,手足口病は,1981年にはほとんど発生がなかったが,1982,83年には2年連続して大きい流行となった(図1)。
手足口病の主な病原体としては,コクサッキーA16型(CA16)とエンテロウイルス71型(EV71)が知られている。ウイルス検出報告からみると,最近2年の手足口病の連続流行はこの2種の病原ウイルスが一部重なりあいながら引き続いて流行したことによることが明らかによみとれる(図2)。すなわち,CA16は1982年には6月をピークとして多数検出されたが,1983年にはほとんど検出されなくなった。一方,EV71は1982年6月から検出数が増加し,1983年にはこれも6月をピークに多数検出された。両ウイルスとも報告の80%以上が手足口病からの分離である。したがって,図1で1982年後半に患者発生が長びいているのは前半のCA16の流行にEV71の発生が重なっていることによる。
ウイルス検出報告を地域別にみると,CA16は1982年夏季を中心に全国的に検出されているが,報告は西日本が早い時期に多い(表1)。これに対し,EV71は1982年夏以降北から南へ順に出現する傾向を示し,1983年夏にはほぼ全国的に検出されるに至った(表2)。このパターンは患者発生の時期的−地域的分布の動きとよく一致している。たとえば,1982年には手足口病の流行開始は九州地方から始まり,南から順を追って進行して,東北地方が最も遅れ,また,北海道地方の発生は極めて少なかった。
手足口病患者から比較的多く検出される他のウイルスとしてコクサッキーA10型があるが,これは1982,83年には検出数が少なく,手足口病を伴った例はほとんど報告されなかった。
ウイルスが分離された手足口病患者の年齢分布(表3)はいずれのウイルスでも年少群が中心で4歳以下が80%以上を占める。1982年にCA16が分離された群では1歳が最も多く,EV71の分離年齢は1および2歳が最も多かった(表3)。
EV71は外国の流行では無菌性髄膜炎を主症状としているウイルスである。今回の流行では全検出数に対して無菌性髄膜炎患者からの分離は27例(6%)であった。CA16の場合は9例(2%)である(表4)。この内手足口病と無菌性髄膜炎を併発した例はCA16分離例で3例,EV71分離例で5例であった。両ウイルスとも咽頭材料からの分離が最も多く,ついで糞便,皮膚病巣の順にウイルスが得られている(表5)。
図1.手足口病患者発生状況(感染症サーベイランス事業)
図2.月別ウイルス検出状況
表1.手足口病患者からの月別,住所地別コクサッキーA16検出状況
表2.手足口病患者からの月別,住所地別エンテロ71検出状況
表3.検出ウイルス別にみた手足口病患者の年齢分布(%)
表4.コクサッキーA16とエンテロ71を検出した患者の臨床症状(1982年1月〜1983年12月)
表5.コクサッキーA16とエンテロ71を検出した検体の種類(1982年1月〜1983年12月)
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