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Vol.5 (1984/2[048])

<国内情報>
昭和58年愛知県感染症サーベイランス事業の検査成績


 愛知県の感染症サーベイランス事業では検査定点を6ヶ所の市民病院に委託し,指定された疾病患者から検査材料を収集している。

 昭和58年4月から12月までの被検者は981名,その検査材料は1717件である。県内の患者定点50ヶ所から報告された患者数に対する被検者数の割合は乳児嘔吐下痢症では患者数3323名,被検者数60名(1.8%),その他の感染性下痢症35/6541(0.5%),手足口病14/1719(0.8%),ヘルパンギーナ22/3083(0.7%),咽頭結膜熱106/436(24.3%),流行性角結膜炎41/706(5.8%),急性出血性結膜炎2/15(13.3%),無菌性髄膜炎195/379(51.5%)と発生患者数に対する被検者数の割合はまちまちであり,被検者数から,それぞれの疾病の発生規模を類推することはできない。

 検査材料の採取病日はふん便では平均3.3日,咽頭ぬぐい液4.5日,髄液4.5日,眼ぬぐい液は3.6日である。

 すべての検体は2代目サル腎細胞,HEL細胞,HeLa細胞,RDクローニング細胞によってウイルス分離を実施し,さらに,ふん便と咽頭ぬぐい液は哺乳マウスを,下痢患者のふん便は酵素抗体法によるロタの検出を,インフルエンザ様患者の咽頭ぬぐい液はMDCK細胞を用いた。

 58年の月別ウイルス分離数は表1に,疾病別ウイルス分離数は表2に示した。無菌性髄膜炎,ヘルパンギーナ,手足口病を除いたそれぞれの疾病から分離されたウイルスはほぼ前年と変わりなかった。しかし,以下の3疾病から分離されたウイルスには特徴がみられた。

 ヘルパンギーナから多く採れたコクサッキーA6型は昭和48,53,55,58年と2〜5年間隔で現われているウイルスで,出現閑期に国内での潜在状態や多発のきっかけなど興味深いウイルスである。

 手足口病の病因ウイルスは,57年はコクサッキーA16型であったが,58年はエンテロ71型に代わった。

 被検者の最も多かった無菌性髄膜炎からの分離ウイルスは58年に各種疾患から分離された26種のうち14種を数えた。検査材料別では,ウイルスを分離した89名のうち,ふん便は87検体で,そのうち82株から,咽頭ぬぐい液は88検体のうち57株とほとんどがこの2種類の検体から分離された。髄液は80検体のうち11株と少なく,そのうちわけはエコー5型1株,9型6株,未同定4株である。エコー5型は本県では49年と57年に各1株分離されたが,今回は無菌性髄膜炎から13株,その他の疾患から11株と多数分離された。これは43年の徳島の小流行(5株)以来ではないかと考えられる。このウイルスは本県全域から分離されたものではなく,東三河地方に限局していた。エコー24型は当県では初めて分離されたウイルスで,かつて無菌性髄膜炎患者から分離したという報告のないウイルスのようであるが,現在のところ,ふん便と咽頭ぬぐい液からウイルスが分離され,髄液からは分離していないが,無菌性髄膜炎以外の下痢,発疹,咽頭結膜熱の患者の便からそれぞれ1〜2例分離されているのに比べ,無菌性髄膜炎患者からは4例分離され,無菌性髄膜炎との因果関係を示唆している。エコー9型はここ数年少数分離されていたが42年以来の,また,エコー30型は53年以来の多発生で,ウイルス分離数からのみみれば,エコー9型は本年の主流行株で,次いでエコー5型となり,エコー30型はそれらに比べて非常に少ない。

 58年の秋以降に採取された検体は現在検査中であるが,41年以来本県で実施してきた定点観測の回顧的観察によると,秋から冬にかけて散発的に検出されたエンテロウイルス(41年のエコー7型,43年のコクサッキーB1型,55年のエコー18型,56年のコクサッキーA16型)は翌年の好発期に多発生している。この現象を全国的規模で観察すると,58年の夏のエコー30型の全国流行が該当している。このようなウイルスの消長は人側の感受性も重要な要因であるが,秋以降に分離されてくるウイルスが注目される。



愛知県衛生研究所 石原 佑弌 栄 賢司
         森下 高行 佐々木 珠美
         西尾 治  鷲見 順子
         井上 裕正
愛知県衛生部環境衛生課 小野 正男
            花井 豊一


表1.月別ウイルス分離(愛知県感染症サーベイランス)
表2.疾病別ウイルス分離





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