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1982年12月,涙腺嚢鼻切開(DCR)とシリコン管の挿入をうけたあとMycobacterium cheloneiによる眼感染を続発した2名の患者が,テキサス州の2ヶ所から州衛生当局に報告された。これらの症例が1983年5月にTexas Preventive Disease Newsに発表されると,そのあとさらに2名のM. chelonei眼感染症が報告された。
症例1:52歳の婦人で慢性の流涙症が両眼にあって,DCRをうけ,デキサメタゾン,ネオマイシンとポリミキシンよりなる軟膏を局所に適用した。手術前,患者はしばしばまぶたが腫れたといい,手術後にもそうした症状が発生したので,材料を培養したところ,M. chelonei subspecies abscessusが分離され,それはカナマイシン,アミカシン,セフォキシチンそれにミノサイクリンに感受性であり,感染はアミカシンの投与によって治癒した。
症例2:89歳になる老婦人がこの3年左眼に涙腺嚢炎を繰り返していた。黄色ブドウ球菌が分離された。DCRによって慢性のブドウ球菌性結膜炎と涙腺嚢炎が治癒した。翌年,DCRをやり直した。その際,ジクロキサシリン,トブラマイシンそしてバシトラシンの軟膏の塗布を処方された。その後,左眼に膿が出るようになり,培養によってM. chelonei subsp. abscessusが分離され,カナマイシン,アミカシン,セフォキシチンに感受性であった。治療は局所へのトブラマイシンの塗布とエリスロマイシンの経口投与で成功した。
症例3:78歳の老婦人で,慢性の結膜炎と両側の涙管閉鎖症があり,局所材料の培養によって表皮ブドウ球菌が分離された。全身麻痺のもとで両側のDCRを行った。用いたシリコン管は手術前に病院において消毒された。その後多量の分泌物があり,培養したところM. cheloneiが分離され,カナマイシン,アミカシン,エリスロマイシンに感受性であったので,アミカシンを局所に塗布したところ治癒した。
症例4:60歳の男性で白内障と上皮浮腫が左眼にあった。白内障に対する総合的な手術が施行されたが,その後手術部近接部に浸潤性角膜炎が発生し,そこからM. chelonei subsp. abscessusが分離された。
なおこれに類似したジョージア州からの記録として,CDCは白内障のため水晶体摘出をうけた2例の患者からM. chelonei分離の報告をうけている。
編集部註:M. cheloneiは迅速発育の非結核性抗酸菌で,環境に広く存在している。最近,各種の臨床例から分離され,ヒトの病気における役割がますます認められるようになってきた。この菌による眼感染は稀なものであるが,角膜炎や手術ないし外傷後の肉芽腫の原因例としては報告されてきた。しかしその頻度は不明である。上記4つの症例はかぎられた時期に1つの州でたまたま報告されたものであったが,共通の伝播体や感染源は固定されなかった。ただこうした例は散発的に,そして日常発生するありふれたものなのかもしれない。
(CDC,MMWR,32,45,1983)
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