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Vol.5 (1984/2[048])

<外国情報>
ヨ−ロッパにおける麻疹撲滅の可能性


1983年1月17・18日,コペンハーゲンで開催されたWHOのヨーロッパ地域事務局の非公式会議でヨーロッパにおける麻疹撲滅の可能性が討議された。

 麻疹ワクチン導入前この地域で年間数千人あった麻疹死亡例はワクチンの使用で減少したとはいえ,まだ年間数百の死亡例と数十万の発症,さらに急性神経合併症,肺炎,耳炎,これらの後遺症,SSPEがひき続き発生している。

 ヨーロッパでは麻疹ワクチンは極めて有効で,1歳児投与で普通抗体上昇は約90%である。ワクチン免疫は終生とみられ,接種にかかわらず麻疹を発症した者は免疫の消失というよりはワクチン投与の不成功または不適切な投与によるものとみられる。この割合を低下させるため,2回投与が実施されている国もある。副反応はまれで普通は一時的発熱か発疹が5〜15%にみられる。ワクチンの禁忌は免疫機能低下状態(病気か治療中),発熱時,妊娠時など。少数だが妊娠時のワクチン接種例があったが胎児への影響の事実はみられなかった。初期ワクチン接種の失敗はコールドチェーンの完備と,より安定したワクチンの使用で改善できる。国により10〜90%の接種率が報告された。一般に患者発生率は接種率に並行している。多くの国で混合ワクチン(麻疹−風疹または麻疹−風疹−ムンプス)が使用されている。チェコスロバキアでは1982年中の麻疹患者は25名にすぎず,そのほとんどすべてが輸入例である。スウェーデンとフィンランドが最近撲滅計画を開始した。

 今日までの経験は,麻疹撲滅が技術的に可能なことおよび作戦成功のための3要素−即ち,高免疫レベル(90%以上)の達成と維持,効果的サーベイランスおよび患者発生時の積極的対策−が必要であることを示している。これら対策としては医療従事者や一般に対する麻疹の危険性と予防法のマスメディア等を利用した教育,入学・入園時の抗体調査,定期的血清学的サーベイ,患者発生に際しての感受性者のチェックとワクチン接種等が考えられる。麻疹は感受性の強い疾病だから撲滅には地域的に統一された共同体制が必須である。撲滅達成に要する時間は国により異なり,2,3年内に達成しうる国もあるが多くは1990年までに達成が可能であろうとみられる。

(WHO,WER,58,229−30,1983

CDC,MMWR,32,40,523,1983)






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