|
1.流行の状況
札幌市において1984年1月〜2月にインフルエンザA(H1N1)型の流行があったが,それが終焉した後の4月17日に市内の1中学校で集団かぜの発生があった。
その後,市内全域にわたって中学校を中心に蔓延のきざしがみられた。また,5月の連休明けから小・中学校において爆発的な流行となり,患者数は5月14日〜5月19日の10,490をピークとして徐々に減少している(図1)。
今回の流行による教育現場への影響は極めて大きく,臨時休校等の措置を行った小学校は,市内全小学校の18%であり,学級閉鎖は31校・51学級であったが,中学校では55%で37校・153学級に及んだ。今回の流行は中学校が主体であり,この現象は過去のインフルエンザの流行には見られないものであった。
2.ウイルス分離
インフルエンザウイルスは,うがい液20検体から発育鶏卵で1株,MDCK細胞で8株分離され,同定の結果,すべてB型であった。発育鶏卵からの分離率は極めて低く,分離ウイルスの血球凝集(HA)価も低かった。
分離ウイルス(発育鶏卵分離)の抗原解析の結果,B/Singapore/222/79株の抗血清1:1024に対して128と低く(1/8),抗原変異がみられた(表1)。
また,患者の対血清の赤血球凝集抑制(HI)抗体価で比較すると,B/Singapore/222/79株では10名に有意の抗体価上昇(4倍以上)がみられ,B型分離株ではそれが14名にみられた。さらに急性期のHI抗体価は,B/Singapore/222/79株ではすべて32倍以上であったが,B型分離株では<32が9名であり,人の抗体価からも抗原の変異がみられた(表2)。
今回の札幌市におけるインフルエンザB型の流行は,その規模は小さかったが,B型単独で,しかも4月中旬から6月までの流行であり,11年前のB/香港/72型の大流行と流行形態が極めて酷似していた。
札幌市衛生研究所 熊谷 泰光,吉田 靖宏,塚田 正和
図1.インフルエンザ様疾患の週別発生状況
表1.分離ウイルスの抗原解析
表2.患者のインフルエンザB型に対するHI抗体価
|