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Vol.5 (1984/9[055])

<特集>
検疫所における入国者の検疫実績


 近年,海外交流の増加に伴い,外国で感染し国内に持ち込まれる,いわゆる輸入感染症が増加の傾向にある。ここでは,検疫所で検疫時に下痢症状を呈した者のうちから,検便を実施した結果の成績を紹介する。ただし,病原菌のうち毒素原性大腸菌は相当数検出されているが,全検疫所で統一的に実施していないので,この成績からは除外した。

 検疫実績:過去3ヶ年の検疫人員は年々増加しており,そのうちコレラ汚染地域からの入国者は横ばい状態であるが,黄熱およびペストの汚染地域からの入国者は漸増の傾向を示している。このことは黄熱およびペストの汚染地域の多くは,アフリカおよび南米地域であることからみると,この地域への旅行者の増加がうかがえる。しかも,これらの地域は検疫伝染病以外のあらゆる感染症の常在地が多いことを考えると,この地域からの入国者は,あらゆる感染症を持ち込む危険があることが推測され,検疫所の下痢症患者に対する検便結果でもコレラ,赤痢,食中毒菌等が多数検出されている(表1,2)。

 分離菌の推定感染国:1983年における検疫時の下痢患者数の約90%は,東,南,西アジア地域からの入国者で,その順位はフィリピン,インドネシア,タイ,インド(ネパール,パキスタンを含む),台湾,シンガポ−ルの順となり,検便実施者の約21%から病原菌が検出されている。分離菌の菌種別ではサルモネラ,腸炎ビブリオ,赤痢,NAGの順となり,コレラは12例(フィリピン4,インド3,インドネシア2,マレーシア2,アフガニスタン1)であった。赤痢はインド,タイ方面の旅行者から多く検出されており,S. dysenteriaeの6例もインドで4例,タイから2例となっている(表3,4)。

 混合感染例:2種以上の病原菌が分離された混合感染例は,病原菌検出者数の約12%にあたる160例で,うち3種以上の事例は13例であった。さらに,同一菌種で2種以上の混合感染例は,赤痢で3例(2種),サルモネラは77例で,うち3種7例,4種2例となり,他菌種,同一菌種の混合感染を合わせると約19%の240例となっている(表3,4)。

 月別の分離菌:月別にみると,8月が下痢患者数,病原菌検出者数とも圧倒的に多くなっている。このことは,夏休みを利用して東,南,西アジア方面への旅行者が多いことが裏付けられる。その他の月については多少の変動はみられるものの,特に顕著な変化はない(表4)。



表1.検疫実績(1981〜1983年)
表2.検疫伝染病の汚染地域一覧(1984年8月9日現在)
表3.分離菌の推定感染国(1983年分)
表4.月別分離菌(1983年分)





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