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Vol.5 (1984/9[055])

<外国情報>
病院におけるサルモネラ感染症−対策におけるある困難性,英国


 2つの集団発生:1981年9月2日(水曜日),ある病院において分娩直後の3人の患者が下痢をおこしていると感染管理者に報告があった。症状はすでに前週末から始まっていた。うち1名はその時まだ入院中であったが,他の1名は地方の産院に移っており,残り1名は退院したものの症状がひどくなり再入院した。この患者の便からSalmonella typhimuriumが分離されたので,他の2名の患者ならびに3名の乳児すべての便について検査を実施した。母親からは同菌が分離されたが,健康なそれら乳児からは分離されなかった。9月4日に,週末の帰省から病院に戻った出産前の妊婦が下痢をおこし,第4の患者となった。この患者の便からもS. typhimuriumが分離された。この9月2日〜4日の期間,数人の看護職員から便がゆるいという訴えがあったので,培養を試みたがサルモネラ陰性であった。一方,第1の産後患者の配偶者が下痢を起こしたので培養したところ,これはS. typhimurium陽性であった。9月8日,この産院で8月29日に分娩し,自宅に戻っていた患者が乳児もろとも下痢をおこし,母親の方からのみS. typhimuriumが分離された。以上すべての分離株はファージ型10に属していた。

 第2の集団発生は最初多少の混乱を招いた。9月5日,第1の患者の出産時の記録係が2名の助産婦とともに下痢をおこした。これら3名はセルフサービスインド料理店で食事をしていた。しかし,他の2人の職員は同じ食事を摂ったが,症状を示さなかった。これら5名の便をしらべたところ,症状のなかった2名を含め計4名からS. infantisが分離された。

 調査:第1の集発における3人の産後患者は8月27日の24時間の間に同一分娩室で出産していたので,この場所に汚染源を求めたが,それらしい心当たりはなかった。出産前の患者がでたので,食事に注目したところ,1名以外はすべて8月28日の昼食にチキンのフリカッセ(シチューのようなフランス料理)を食していた。残りの1名(分娩前患者)とその夫は他の患者の皿からポテトチップスをつまんでいた。

 調理場は環境保健官によって9月4日に視察されたが,満足できる状況ではなく,あぶらむしの出没のひどいありさまであった。チキンフリカッセは検査できなかったが,微生物汚染のおこりうる機会はいくらでもある可能性が認められた。さらに,産科には最後に食事が運ばれることになっており,その運搬手車は加熱滅菌されていなかった。こうした状況にかんがみて,衛生指導がなされた。症状のない調理職員の検便を行ったところその1名がS. typhimuriumファージ型10を排出していることがわかった。彼は8月28日調理を手伝ったが,その翌日病院を辞職している。家族をしらべたところ,彼とその妻,乳児(女子)の3名で,7月28日から8月11日までスペインに家族休暇旅行していたことがわかった。その時,乳児が下痢をしていた。妻の検便結果もS. typhimuriumファージ型10陽性であった。

 一方,第2の集発ではセルフサービスインド料理店の調査によって,職員のうち4名がS. infantisを排出していることが判明し,この店の衛生水準もまた低かった。問題となる食品はすでになく,検査できなかったが,他の食品(料理されたチキン)からS. indianaが分離された。この店は施設の改善命令が出された。

コメント:サルモネラの血清型が明白になって,2つの集団発生について初期の混乱が解決されたのは幸いであったが,病院におけるS. typhimuriumファージ型10の流行がスペインから持ち込まれたものであるか,たまたま両方で存在していたものかは判然としない。また,母親が感染しているにもかかわらず,新生児が感染の症状を示していないことも注目される。なお,この事例においては環境保健官が全体的な対策責任をもっていたのであったが,家庭医,病院当局との見解のちがいによってかならずしも協力が得られず,不用の検便によって患者が長期にわたって社会から疎害されるといった事態もおこった。また,母親と新生児とを隔離することなく,母乳を与え続けるべきであるとする保健官の意見は最初の患者においては病院側職員の指示の方が早かったため実施できなかった。

(CDR,84/22,1984)






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