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Vol.5 (1984/11[057])

<国内情報>
佐賀県のからしれんこん食中毒による死亡者について


 1984年6月下旬から,「からしれんこん」を原因食とする「ボツリヌス中毒患者」が九州地区をはじめ,京都,島根,岐阜,東京,愛知,千葉,広島,徳島,愛媛の各県で広範囲に発生し,11名の死者を出すという食品衛生関係者には全く大きなショックの事件が発生した。

 1.原因食品の入手経路:佐賀県内での死亡者は唐津市内の60歳の女性1名で,患者の長女が6月17日,熊本へ友人と遊びに行き,荒尾市で母親の好物のからしれんこん1箱(3パック入)を購入し,帰宅後冷蔵庫に保管していた。

 6月23日夕食の副食として,母親だけが摂食し(量,調理方法は不明),翌24日午前7時頃,急に胸内苦悶,脱力感,視力障害を訴えた。

 2.症状と治療経過(唐津赤十字病院における記録)

 3.検査状況:当所でのボツリヌス検査は初めての経験であったので,成書を参考に手探り状態で検査に着手し,同時に実験用マウス,診断用血清等手配した。患者材料(血液−便)は,血清治療開始後,血液は2日目,便は3日目に採取し,ただちに材料を所定のごとく処理し,トリプシンにて毒素を活性化し,フィルター0.22μmで濾過し,その濾液を動物接種の材料とした。検査の結果,この被検材料および解剖時の腸内容物については,ボツリヌス毒素は検出されなかった。このことは患者に使用された治療用抗毒素血清によって患者体内の毒素が中和されたとも推測される。血清治療中の3日目に採取された腸内容物を増菌(クックドミート)培養後,上清を処理し,動物(マウス)試験した結果,中和テストでボツリヌス毒素A型を証明し,培養からA型菌も検出した。

 このような特異的でかつ,広域感染症の場合には,発生県相互の緊急な情報交換の必要性が痛感された。

 なお,食品材料(からしれんこん)の検査状況については紙面の都合上割愛した。



佐賀県衛生研究所 藤本 登,山村 勝幸


表.症状と治療経過(唐津赤十字病院における記録)





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