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九州,熊本市S社製からしれんこん喫食による食中毒は,千葉県では1例であるが,不幸にも患者は死亡した。からしれんこん喫食後の患者の行動等は後述するごとくであるが,患者(H.T.62歳,男性,農業,千葉県山武郡芝山町在住)は旅行中にからしれんこんを食していること,自分が土産として買った真空パック入りと,2種類のからしれんこんを喫食している。土産として買ってきたからしれんこんは家人も喫食しており,患者がどちらのからしれんこんにより発症したのか不明である。従って感染時期も推定は困難である。発病時期は,6月25日朝と推測されるが,患者は高血圧症,白内障の病歴をもっていることから,家人も患者の目の異常の訴えにはなんら注意していなかったと考えられる。
ボツリヌス菌検査は衛生研究所で実施したが,からしれんこんの残品(同一パックにあったものだが,患者が喫食した残りのものではない),患者血清について,細菌学的検査,動物実験と試みたが,いずれもボツリヌス菌は検出されなかった。しかし,A型抗毒素による中和試験でA型毒素が証明され,患者は,A型ボツリヌス菌による食中毒であることが判明した。
患者 H.T.62歳(T.10.8.18)農業(千葉県山武郡芝山町在住)
59.6.17〜19 山武郡市遺族会で九州(熊本,福岡,佐賀,長崎)旅行(同行96名,患者以外の発病者なし)
6.19 水前寺観光センターでS社製「からしれんこん」真空パック3本入500g,2箱購入。患者の弟宅へ1箱土産として渡す。(発病者なし)
※患者は旅行中にからしれんこんを喫食しているが,日時,喫食量,製造所等詳細は不明である。
6.20 夕食:からしれんこん1本を家族3人で喫食。(発病者なし)
6.24 夕食:からしれんこん1/2本患者のみ喫食。
6.25 朝:患者,なんとなく目の異常を訴える。(患者は高血圧症,白内障の病歴のあることから,家人も,本人もこのための異常と考え,なんら注意をしていない)
夕食:からしれんこん1/2本患者のみ喫食。(患者宅に残ったからしれんこんは1本で,後検査に供する)
6.26 目の異常,息苦しさなどから,掛り付けの病院で加療。
6.27 好転せず。成田赤十字病院へ来診。新聞等マスコミの報道で,からしれんこんによる食中毒を知り,患者もからしれんこんを喫食したことでもあり,さらに,臨床所見が霧視,眼瞼下垂顕著,口腔粘膜乾燥症状を呈していたところから,ボツリヌス菌による中毒の疑いとして成田赤十字病院に入院。
夜:抗毒素血清接種。
6.28 早朝:呼吸困難のため酸素吸入,眼瞼下垂,嚥下障害,構音障害を呈し,重篤。
※からしれんこんの残品,衛生研究所入手。
検査結果
生菌数 108/g,大腸菌群(−),ボツリヌス菌(−),増菌培地上清の毒素(−)
正午:抗毒素血清再接種。
7.2 患者血清2ml入手(衛生研究所)
0.5ml宛マウス2匹に接種
7.3 接種マウス発症(両腹側にへこみ,眼,尾静脈が赤黒くなる)
2匹中1匹死亡(20時間後),他は回復(1週間観察)
A抗毒素血清を加えた患者血清の中和試験 発症せず(1週間観察)
ボツリヌス菌A型による中毒と診断(成田赤十字病院)
7.5 4時39分 死亡
千葉県衛生研究所 七山 悠三,市村 博
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