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昭和59年6月,からしれんこんに起因したボツリヌス食中毒は全国16都府県に発生し,福岡県では2名の死者と3名の患者(疑症を含む)が報告された(表1)。死亡した患者について,からしれんこん摂食から死亡までの経過は次のとおりであった。
患者A:6月22日18時頃,からしれんこんを摂食し,6月23日嘔吐(10回以上)についで,言語障害および眼症状などを訴え,同日18時に某病院で受診した。受診時の血圧は140〜210mmHgであった。6月24日3時30分頃,一時心臓および呼吸が停止したが,人工呼吸により回復した。6月26日20時脳死の診断があり,7月1日9時33分心不全により死亡した。
患者B:6月20日か21日の昼食時にからしれんこんを摂食した疑いがあり,6月22日嘔吐(10回以上),目まい,目があけられない等の眼症状を訴え,6月22日23時30分に某病院にて受診した。受診時は嚥下困難,腹部膨満などの諸症状を訴え,血圧は210mmHgであった。6月24日呼吸困難,言語障害等の神経症状が出現し,6月24日20時30分急性心不全により死亡した。本症例の場合は,この事件が発覚(6月26日)した2日前に既に死亡していたことになり,本食中毒の第一号犠牲者であったと推察される。
ボツリヌス菌および毒素の検出:からしれんこん約100gを乳剤にし,5000rpm20分間遠心した上清にストレプトマイシン,ペニシリン(100μg/ml)を加え,その0.5mlをDDY系マウス(20g)の腹腔内に接種し,毒素の検出を行った。一方,菌分離はクックドミート培地に試料を接種し,37℃6日間嫌気培養を行った後,血液および卵黄加GAM培地で分離培養を行った。
からしれんこん42検体(三香製)のうち,13検体からA型毒素産生性のボツリヌス菌を,また,11検体からはA型毒素を検出した(表2)。
最も強い毒素が検出されたからしれんこんのLD50は0.139mgであった。このLD50値をからしれんこんの乳剤1gに換算すると7×103LD50/gとなる。そこで,この値を基にしてSakaguchiら(1968)の尾静脈内接種法によって,からしれんこん中の毒素量を推定した。その結果,毒素が検出された10検体のうち,4検体は>2000LD50/g,6検体は<1000LD50/gの毒素量を示し,また,死亡した患者2名の残品(同一包装品)からも毒素が検出された。
一方,分離菌3株はいずれも熱抵抗性であり,110℃5分で死滅した。また,一部精製毒素は80℃10分の加熱で失活した。
現在市販からし7件について,ボツリヌス菌の汚染状況を調査しているが,本菌は分離されていない。
福岡県衛生公害センタ− 常盤 寛,乙藤 武志
表1.福岡県におけるボツリヌス食中毒患者
表2.ボツリヌス菌および毒素の検索
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