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Vol.7 (1986/11[081])

<国内情報>
「乳児ボツリヌス症」の本邦第一例(2)−毒素の検出と菌の分離


 本月報第7巻第9号(79号)に掲載された本邦最初の乳児ボツリヌス症発生の報告について,ボツリヌス症確認のための毒素および菌の検索状況を追加報告する。

 船橋中央病院から千葉県血清研究所がボツリヌス症を疑われる乳児の便について菌検査を依頼されたのは,来院から約2週間後の1986年6月9日であった。ただちに,便に3倍量のPBSを加えて懸濁させ,その3,000回転遠心上清0.5mlをマウス腹腔内に注射した。同時に,注射量中約50単位のレベルで,ボツリヌスABEF多価抗毒素での中和を試験した。翌朝6月10日の観察では注射したマウス全部が死亡していた。抗毒素の効果がなかったので,一時はボツリヌス症の疑いを捨てたものの,再度,検体を希釈して試験した結果,検体0.1mlを静注したマウスに,注射後70分で明らかにボツリヌス特異の症状が観察され,A型抗毒素を同時に注射したマウスだけが,6月11日に生残していた。患児の臨床症状はそれほど重度ではないと聞いていたので,中和試験で抗毒素の効果がないほど多量の毒素が便中に産生されているとは予想できなかった。その後2ヶ月間,数回にわたり,便中の毒素量を測定したが,便1gにつき最高105マウスLD50という強い毒素が検出された。なお,毒素は7月19日まで便中に証明された。

 毒素検出と並んで,6月9日の便をクックトミートで培養したものから菌の分離を試みた。クックトミート(以下CMMと略す)から6月10日GAMプレートに移植し,6月12日にコロニーを釣って菌のPBS浮遊液を作製し,マウスに0.1mlずつ注射した。マウスに毒性を示したコロニーを再びCMMに植え継ぎ,検鏡して,単一と見られる培養を得ることができた。この培養はマウスに0.1ml静脈注射して注射後1時間でマウスを殺す毒素を産生していた。単離した菌は凍結乾燥して保存した。

 病院から便と一緒に,患児に与えたミルクとハチミツの残り,使用した哺乳瓶の乳首,家内および家の周囲から集めた塵介,家族3名の便が届いた。これらの検体はCMMに植え,培養5日および7日後の毒力を測定した。毒素を確認した培養についてはA型抗毒素での中和を試験した。ハチミツ,哺乳瓶の乳首,電気掃除機で集めた塵からA型毒素を検出した。ハチミツの培養からは便の場合と同様にA型菌を単離することができた。

 患児の入院2週間後に採血した血清について毒素検出を試みたが,検出レベル以下であった。なお,血中抗毒素の有無を調べたが,血清0.5mlで5マウスLD50のA型毒素を中和することができなかった。

 患児は哺乳力は弱いものの便中に菌が検出されなくなるとともに回復し,8月22日に退院したと病院から知らせがあり,調査を終了した。



千葉県血清研究所製造3科(ボツリヌス室)





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